第53話 告示

「俺はこの国に宣戦布告をする。このまま死ぬのは癪なんでな!」


 俺の言葉とともに、束縛していた縄が燃え尽きる。


 ざわめきが貴族間を伝播する。

 目の前に国家に反逆した大罪人が誕生したのだから動揺もするだろう。

 むしろこのくらい動揺してもらわないと逆に困るところだった。


 煽るなら、裏切るなら、大げさに。開き直って。

 驚きで身体が固まるほどでなければ有利状況にはならない。


「貴様ッ……誰の恩寵で爵位を与えられたと思っておる……!!」

「あんたよりも優秀なあんたの先祖に頂いたんだよ!」

「不敬ッ! 不敬罪じゃ!! 今すぐ落とせ! 首を! 首をォ!!」


 国王のしなっしなの叫びで我に返った兵士が剣を構えなおす。


「だからみすみす死ぬわけないって」


 振り下ろされた剣が展開された『エア・ロック』に弾き飛ばされステンドグラスを突き破った。


 極彩色の雹に悲鳴が上がる。


 さて、どう逃げようか……!

 扉の向こうからは騒ぎを聞きつけた兵士たちの足音が徐々に近づいてきている。


 窓から、もしくは正面突破、もしくは──。


「兄様!!」

「マルタ!? タイミング良すぎだろ!」


 数十センチ前の空間が縦に裂け、そこからマルタが手を伸ばしてきたのだ。

 すぐさま彼女の手を取り、抱き合うようにして亀裂に吸い込まれていく。


「皆様! 次は戦場で!!」


 唖然とする人々の視線を遮断するように亀裂が閉じた。


 ☆


「いや、助かった。ありがとう」

「無計画に敵を作るなんて、珍しいですね。兄様らしくないというか」

「ついに馬鹿になったのかのう?」


 マルタに助けられ、ファンダイク邸の応接室まで戻ると、いつもの俺の席にテンが我が物顔で座っていた。


「馬鹿になったわけじゃないし、実際想定していた事件イベントだよ」


 適当に腰かけると、すぐさまマルタから紅茶が差し出される。


 紅茶でのどを潤してから再び俺は口を開いた。


「裁判になることは想定済みだし、国王の屁理屈と言いがかりで保身のために強引に殺されるのも勇者断罪での行動から予測はできてた」

「じゃが、対抗策として宣戦布告したのは失策だと思うがの」

「いや、宣戦布告が1番安全なんだよ」

「どういうことじゃ?」


 マルタとテンの顔がスッと引き締まる。


「そりゃ、ただの他国の要人が宣戦布告すりゃ、その場で殺されて終わりさ。でも俺は戦力もない田舎貴族という認識のまま、魔王を打ち倒せると見込まれた勇者を殺したんだ。裏で他国とつながっていると思われても仕方ないだろ?」


 国王や他の貴族には俺たちのレベルが勇者以上であること、魔王と協力関係にあることなんて知る由もない。


「田舎貴族が勇者を殺したとなれば背後の勢力を警戒するし、攻め入るにもきちんと準備を整えてから来るはずだ。だからここ数か月の安全を確保するために宣戦布告したんだよ」


 経済規模や兵士の数はさすがに劣るから、安全な期間のうちに策を講じる必要はある。

 安全と言えど余裕ぶっている暇はないのだった。


「ちょっと、マルタが来るならあたしも一緒に帰らせなさいよもう」

「お、ようやく戻ったかイレリアよ」


 またもや空間の亀裂が生じ、イレリアが姿を見せる。


「お、じゃないわよ。あの後阿鼻叫喚だったんだから」

「広間にいたのか?」


 イレリアは長机に腰かけるとため息をつく。


「いたのか、じゃないわよ。誰のおかげでマルタちゃんの助けを呼べたと思ってるのよ。風魔法で姿消して亀裂造ってって忙しかったんだから」

「うっ……それは、ありがとう」


 なるほど、俺がやらかし始めるのもお見通しだったってことか。


「ふふん、我の指示じゃ。褒めてもよいぞ~?」

「はいはい。すごいすごい」

「冷たすぎるじゃろ!? お主、誰のおかげで助かったと思ってるんじゃ!?」

「みんなのおかげさ」

「そう即答されると言い返せぬ……! ぬぬぬ……」


 警戒してる犬みたいな表情で唸り始めてしまった。


「実際、ありがたかったよ」

「それを言え! 先に言え!!」

「調子乗らせたくないからな」

「なんでじゃ!」


 スッとテンと正対する位置に身体を向ける。


「外交の話がしたいからさ」


 俺の雰囲気が変わったのを感じ取ったのか、テンからおちゃらけた空気が抜けていく。


「外交じゃと?」

「そう。国と国の話さ」


 テンの目が細められる。


「お主、独立国家になるつもりか」

「もちろん。法制度の下地は今の時点でしっかりしているし、そもそも国に宣戦布告した以上国からは離れた領地になっているしな」


 そこで、とまっすぐテンの満月のような瞳を見据える。


「俺はこの領地を共生の国として建国する」

「共生ですか? もしかして魔物との……?」

「魔物というより魔族だな。話の通じる種族なら共生できるだろ? 今だってこうしてテンと話せてるんだ。できないことはないさ」

「お主の理想は理解した。じゃが、外交とは?」


 テンからの魔力の圧を一身に受ける。

 下手なことを言ったらたとえ俺でも殺される。そんな予感が背筋を矯正させる。


「同盟を組んでくれないか。今までの協力関係じゃない。国としての同盟を結んでほしい」


 ─────────────────────────────────────

【あとがき】


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