第50話 終の部屋

 ~マオト視点~


 重い扉が開かれる。


 ファンダイク邸の内部はまさかのダンジョンだった。


「あいつは……魔物だ。殺すべき害悪だ……」


 魔物がはこびるダンジョンの最奥でふんぞり返ってやがるあいつは紛れもなく魔物だ。もはや人間ですらない。魔王の手先としてこの国に送り込まれたスパイだ。


 ということはマルタも魔物であり──


「やっぱり俺は悪くない。ハメられたんだすべて! あいつらに!!!」


 俺はこの国のために動いてきたんだ! あいつらが! ファンダイクという悪が俺を貶めた!!


「殺す……この手で! 必ず!」


 奴らの罪さえ暴けば俺はまた勇者に復帰できるはずだ。


 一歩一歩、憎悪を高ぶらせながら迷路のような道を進んでいく。

 赤いカーペットが敷かれた廊下はうねり、分岐し闇の中へどこまでも続いていく。


「────!!!!」


 上の階からどたどたと走り回る足音がする。

 足音の主は叫び声をあげ、足音を打ち鳴らしながら部屋のドアを蹴破っているようだった。


「傍迷惑なモノ飼いやがって……」


 ここに魔物が生息していることは判明した。

 なら、ただいつも通りに攻略すればいい。


『ルミネ』で灯しながら、暗闇を進んでいく。


「はあ? 嫌がらせかよっ……」


 突然、天井から大粒の雨が降ってきた。

 室内の大雨とかいう矛盾に打たれても服が濡れて不快感が増すだけで皮膚が溶けるといった効果はなかった。


「クソッ、何のために……!」


 皮膚にぺったりと張り付いたインナーの不快感を我慢しながら奥へと進んでいく。

 ある部屋の前、人の気配がする。


 馬鹿だな。雨で足音とか息遣いは消せても気配は消えねえんだよ。

 勇者なめんな。


 逆にあちらからも俺の足音は聞こえていない。


 いいぜ。奇襲の恐ろしさ、身をもって教えてやる。

 剣を構えたまま、脚でドアを開く。


 瞬間、そこには光があった。


「『サンダーボルト』!!」


 防御する時間もなく、雨で濡れそぼった体を稲妻が貫く。


「がッ……」

「貴様も脳が足りてないようだな」

「てめえ……! クソジジイ……!!」


 全身がしびれてまともに立てなくなった俺の横を数人の兵士が通り過ぎていく。


「ジジイではありませんぞ。兵団長セウロス。覚えておきなさい。あなたに恨みがあるうちの一人ですから」

「だったら殺して行けよ……!!」


 なぜ逃げる? こっちはとっくのとうに死の覚悟ぐらいできてんだよ。


「恨みを晴らしたいのは私だけではありませんのでね。それに我々は慢心はしない。しかるべきタイミングでとどめは刺されますよ」


 そういうとセウロスと名乗ったジジイは闇に消えていった。


 慢心ねえ……てめえが逃げるのが慢心なんだよ!


 まだ芯がしびれている身体を無理やり起こし、前へと進んでいく。


 その後も足元を凍らされたり、2階では走り回っていたクモの魔物に蹴られ、ゴースト系の魔物には襲われ、ボロボロというより痛みだけ残るようないやらしい攻撃に不快感が増していた。


「クソが……てめえそんな性格じゃねえだろうが」


 あまりにいやらしすぎる。

 あの田舎貴族のお高くクールにすましてやがる印象からはかけ離れた、人が苦しむのを楽しむかのような醜悪なつくりだ。


 細かい傷に耐えながら3階までたどり着く。


 最上階は意外とあっさりしていた。

 中央階段から左右の廊下は壁でふさがれていて道が一本しかない。


 ──執務室。


 当主だけの部屋、当主がいるべき部屋だ。


「『ファイア』」


 執務室の扉が、床面から徐々に焦げ付いていく。

 トラップの類はない。


 扉から天井に燃え移った魔炎は餌を探す蛇のようにその鎌首を伸ばしていく。


「やっぱな。二人でいやがるか」


 燃え堕ちた扉のその先、陽炎の奥のヤツと目があった。


「よく来たね」

「よく来たねじゃねえよ。気色悪いダンジョン作りやがって」

「まあ、それはダンジョンメイカーに言ってくれ。んで、ここに来たってことはいいな?」


 いいな、じゃねえよ。てめえのせいでこっちは人生壊されたんだ。


「てめえを殺す。マルタもだ! 全部てめえらのせいだろうが!!」


 呆れたようにため息をつくとヴィルは肩をすくめた。


「そう思ってるうちはいいけど、現実見たほうがいいと思うがな」

「はぁ!? 俺が何したってんだよ!? 俺は! 世界のために勇者を全うしてんだ!!」

「世界のために? そのために彼女たちは使いつぶされたのか?」

「彼女たち……?」

「お前のパーティーメンバーだよ。マルタ含む。お前、世界のためだ国のためだなんだ言っといてただただ女の股しか見てなかったよな?」

「そのくらいいいだろうが!! 勇者の報酬が少なすぎるんだよ!!」


 あいつらだって了承してんだ。

 俺が喰っても問題ないんだよ。


 てめえが出てくる話じゃねえ!!


 熱くなる俺とは対照的にヤツの目は冷酷だった。


「拒否してる子を殺そうとしてでも獲得する価値はないんだよ。色猿が。まあ、言っても折れないだろうからいいぜ。殺ってみろよ」


 その瞬間、部屋に魔力が満ちた。


─────────────────────────────────────

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