第49話 決戦の前は心に従え

 ~マオト視点~


 翌日、目が覚めた俺に見えたのは宿屋の薄汚い天井だった。


「クソが……」


 ベッドから跳ね起き、装備を身に着ける。

 むかつくほどに身体が軽い。


 納得はしていないがあの女たちの工作はうまくいっているようだった。


「ああクソクソクソォ!!」


 拳を思い切りベッドに叩きつけると、木枠にひびが入った。

 イライラが、衝動が止まらない。


 一瞬冷静になって抑えようとしたが、努力むなしくイライラがつのるだけだった。


 今すぐ殺しに行きたい。

 もう近くにいるんだ。いつでも襲いに行ける。


 いつでも殺れるなら、今殺りたい。


「クソ……いいぜ、家まで突撃してやるよ……!!」


 窓を蹴破るようにして、俺はファンダイク邸に向かう道に飛び出した。


 ☆


 ファンダイク邸はこれから襲われるとも知らずに間抜けな空気をまとっている。


 見回りの衛兵は二人。

 門付近の警備は薄めか。


「なァ……」

「貴様! この先はファンダイク様の屋敷であるぞ! 立ち入り禁止だ!」

「うるせェんだよ。死ね」


 衛兵の顔面を腕で掴み、炎魔法を発動させた。

 骨の髄まで燃やし尽くされた衛兵の遺灰が散っていく。


「ひっ……敵襲!!」


 腰を抜かしそうになりながら衛兵が逃げ帰っていく。

 逃げればいいさ。どうせ屋敷にいるやつは皆殺しにするんだ。数分伸びただけの命を大切に守っていればいい。


 暗い高揚感を感じながら俺は屋敷の入口へと走っていった。


 ~ヴィル視点~


「敵襲ゥ!! 勇者です! 勇者が現れましたァ!!」

「来たか」


 すぐさま執務室に向かい、ダンジョンコアに魔力を流す。

 一瞬の歪みの後、空間が拡張される。


 ファンダイク邸と館型ダンジョンが融合した迷宮。

 それが今の俺の牙城だ。


「ヴィル様! いかがいたしますかな」


 兵士たちを引き連れて兵団長が現れた。

 セウロスら兵団の兵士たちも準備は万端だ。


 たっぷりあった時間を使ってダンジョン屋敷での戦闘訓練も繰り返してきた。

 もはやそこら辺の冒険者よりもダンジョン戦闘では秀でているほどだ。


「衛兵は1、3階で待機、2階にゴースト系魔物を放つ。お前は3階で指揮を執ってくれセウロス」

「承知いたしました! お前ら! 何としても勇者を妨害せよ! 打ち倒すのではない妨害だ。ゆえに! 命だけは! 絶やすなよ!!」


 雄たけびがボス部屋を揺るがし、こだまする。


 勇者一人のためだけに兵士たちを失っていくのは採算が合わない。

 その上、勇者の目的も俺の殺害が主だ。他の人間には目もくれず突き進んでくる可能性もある。

 無駄に粘ってメリットの一つもないのだった。


「総員配置につけ! ヴィル様! ご武運を!」

「下の階は頼んだ!」


 そうして兵士たちは意気揚々と持ち場へと去っていくのだった。


「ついにですね……」

「案外早かったな」

「そうですね。私なんて特に兄様の元に戻ってきてからの日々はあっという間でした。日々の公務に鍛錬で兄様と出かけることすらできなかったんですから」


 マルタがぷっくりと頬を膨らませてむくれる。


「マオトの件が片付いたら王都にでも遊びに行こうか」

「はい! じゃあ何としてでも奴を倒さないとですね!!」


 マルタはぐっと両の拳を握って意気込んだ。


 彼女も俺と同じようにこのボス部屋で待機させることにした。

 やっぱり、因縁の相手には因縁のある者で戦うべきなのだ。


 追放されたマルタに追放させるよう仕向けた俺、その両方がボス部屋にいる限りあいつは諦めずに向かってくる。

 その確信があった。


 文字通り、人を変えさせた。

 元の勇者に戻ろうとするならば変化の原因は確実に息の根を止めるだろう。


「……」


 ボス部屋を沈黙が通り過ぎていく。

 魔導書のメンテナンスをしているマルタも俺も無駄に口を開こうとしない。

 だが、兄弟としての空気感なのか不思議と嫌な感じはしない。


 ただ、獲物が来るのを待つのみ。


「紅茶でも、入れましょうか?」


 暇を持て余していることに気づかれたのか、マルタがお湯を沸かし始めた。


「頼む。この場面で落ち着くのも一興かもな」

「一杯くらいの時間はセウロスたちが稼いでくれるでしょう」


 ─────────────────────────────────────

【あとがき】


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