第48話 猫の手を借りる必要はなかった

 ~マオト視点~


「まいどありー」


 薬屋の声を背中に受けながら俺は外へ出た。

 うっとおしいくらいまぶしい日差しが全身を刺す。


 もはや俺は罪人ではなく、野良の冒険者に完全に紛れ込むことができていた。


「クソ……気色悪ぃ……」


 日光に当たるだけで身体が焼けるように熱い。

 地脈を取り込み、魔物を屠り続けた結果なんだろうか。


「ああ……クソが!」


 なんで俺が苦しまなきゃならねえんだよ!

 裕福にのんびり暮らしやがって……! そうやって勇者を貶めておいてさも何事もなかったかのようにふんぞり返ってんじゃねえよ!!


 熱に比例するように心の底から憎悪とイラつきがあふれてくる。


「あの……大丈夫ですか?」

「構うな!」


 差し伸べられた手をはね除け、路地裏へ入ってゆく。


 ジメジメとした日陰が心地いい。


 一度、整理しねぇとな。


 買ったばかりのポーションを流し込み、しゃがむ。

 幾分気分は良くなったが、その代償に足が震えてきた。


 もはやこの身体、ポーションすら受け付けなくなっているらしい。


「違う……考えろ……アイツを殺すんだ」


 ふと、顔を上げる。

 狭い路地の奥、寂れた古民家にかかっている看板が目に入った。


『ヘカテ』


「クソ……嫌なとこに来ちまった」


 ヴィル・ファンダイクと初めて出会った因縁深い店なだけに、記憶に残っている。

 もうファンダイク領には到着しているのだ。


「のくせにこの体たらくかよ……あぁクソォ!!」

「ずいぶん荒れておるの」


 目の前が割れた。


 突然発生した超常現象から現れたのは魂だとかほざいていたあの女だった。


「テメェ、何しやがった……!!」

「お主の容態と魂は関係ないぞ。イレリア」

「もう、隠れてたのに」


 真後ろからの艶やかな声に振り返るとまた一人女が立っていた。


「なんでいんだよ……!」

「あたしの店の前よ? いたっていいじゃない」


 イレリアと呼ばれた女が指を鳴らすと、俺を中心に透明なドームが広がった。

 瞬間、うるさかった大通りの雑踏の音が消える。


「あなたには店内よりもここの方が安心できるでしょう?」


 イレリアが全てを見透かしたような笑みを浮かべていた。


「俺を……どうする気だ」

「別に取って食おうだなんて思っとらん。少しばかりケアしてやろうかと思っての」

「ケア……だあ? んな言葉信じると思ってんのか?」


 意図が分からん。

 ガキはともかくイレリアはヴィル側の人間のはずだ。殺すならともかく俺をケアする理由が見当たらない。


「今のお主が襲撃しにいっても衛兵一人に沈められて終いじゃ。それに回復を待っているほど我、我慢強くないしな」

「テメェらにとっては俺が弱い方が都合いいんじゃねえか? なあ。慈愛の心でやってんなら今すぐ消えろ。反吐が出る」

「慈愛なんて無いぞ。ただお主に確かめて欲しいことがあるだけじゃ」


 全身に痛みが駆け巡り、膝をついてしまう。


「お主も自分が限界だということくらいわかっておるじゃろ?」

「だとしても……テメェらに借りを作る気はねぇよ」


 よろよろと立ち上がり、ガキを睨みつける。

 そもそもコイツらに任せたところで回復してくれるとは限らない。

 それどころか近づかれた瞬間に殺されることだってなくは無い。


「回復するまで待たれるのが嫌なら、全快するまで逃げてやるよ……!!」

「いやお主が強くなるのが怖いわけじゃないんじゃよ。ただお主がそのまま全快する前に死んでしまうのが困るだけじゃ」

「……はぁ? 死ぬわけねえよ」


 ガキはやれやれといった風に肩をすくめると教師面して解説し始める。


「お主は地脈の魔力を取り込んで強化されている状態じゃろ? 地脈の魔力は確かに取り込みやすく手っ取り早く強化できる代物じゃ。だがの、お主の身体にも容量があるんじゃよ。その容量をオーバーしているのが今のお主の状態じゃな」

「だから死ぬってのか? そもそも毎日のように魔法を使ってんだ。オーバーするまでため込めるわけねえだろ」


 背後からも呆れたようなため息が聞こえた。

 とことん馬鹿にしてくるなこいつら……!!


「あなた、自分の身体でも魔力生成されてるのよ? じゃないと地脈がなければ魔法が使えなくなってるはずでしょ?」

「もとからお主の身体で生成している魔力に地脈からの異質な魔力が堆積してるんじゃよお主は。このままだと貯めきれない魔力が爆発するんじゃよ」

「てめえらの手は借りねえっつってんだろ!!」


 足元で火魔法を爆発させ、垂直に飛ぼうとしたが、まるで見えない天井にぶつけたかのような衝撃が頭部を襲う。


「逃げれるわけないでしょう?」

「クソ……!」


 鈍痛とともに沈み込んでゆく意識が最後に記憶したのはこちらを見下ろす、二人の女のむかつく顔だった。


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