第38話 もはや魔王のほうが友好的になってきた
「お主、妹を取り返して呆けたか?」
「いや正気だが? この屋敷を丸ごとダンジョン化させたい。そこら辺の手段は知ってるだろ?」
そもそもブレヴァンのマルタルートにおいてファンダイク邸はマルタと結ばれるための最後の障害としてダンジョン化されている。屋敷内を徘徊する私兵を倒しながら進み、ボスのヴィルと相対する。その道のりはただの屋敷というには長すぎるのだ。
「お前の部下にいるだろ? そういうことに長けてるヤツ」
それもちゃんと幹部クラスまで上り詰めてる優秀なヤツがいるはず。
視線を誤魔化そうったってバレバレなんだけど。
汗ダラダラじゃねーか。
「わ、我の部下にそんな奴いたかの~?」
「嘘つけ。そもそもダンジョンは
「兄様、建物をダンジョン化できるのですか?」
マルタは講義でも受けているかのように挙手をして疑問を投げる。
「この国にも経験値ダンジョンのように内部が遺跡になっているダンジョンがあるだろ? あのようなダンジョンはダンジョンとなってから内部が書き換えられているのではなく、元々人間の遺跡だった場所をダンジョン化させている。その上、その遺跡も特段魔力が集まる地点でもない、そうだろ? テン」
「ぬぬぬぬぬ……なぜそこまで詳しいんじゃお主は! そうじゃ! そうじゃとも! コアさえ設置できればどうにでもなる!」
「やっぱ知ってんじゃん。どう? 協力してくれるかい?」
頭を抱えて黙り込んでしまった。
もうちょっと押してみるか。
「で、でも我らにメリットないじゃろ!?」
あ、やっと気づいた。
そもそも何で悩むフェーズまで進んでいるのかは謎なんだよな。
人が良すぎるか。魔王だけど。
「メリットならあるさ。何もダンジョンコアだけを寄越せって言ってるんじゃない。ダンジョンコアはダンジョン生成のためのアイテムだが本質は膨大な魔力の塊だろ? それに、コアは地脈とも接続させることでさらに魔力を蓄えることができる。つまりだ、ファンダイク邸を魔族のプラットフォームにできる」
「何が言いたい? はっきり言ってくれ」
「魔族の商人の販路が広がるってことだ。今、ネフェル村までしか来れてないだろ? それがファンダイク領の中心街まで来れるようになるって話だ」
基本、魔王のような膨大な魔力を蓄えている魔物以外は地脈やダンジョンから外れて行動することは難しい。
この知識自体、魔王城の書庫にある本のテキストだから、詳しいことは何も知らない。
作りこみが細かいといってもこんな豆知識は深堀りされないからね。
「俺は家をダンジョン化できる。
「ぬぬぬぬぬ……」
あと一押しくらいで行けるか?
「まあ、これを機に交易が広がれば、同盟関係にまで進む機運が高まるかもな」
「うぬぬぬ……ええい分かった!! あ奴に知られるのは業腹だが仕方ない!! いつ魔王城に来れる!?」
「お前と違って移動を短縮できないからな。1週間後でどうだ」
「1週間後だな! それまでに奴を説得してくるから! 約束違えるでないぞ!」
そう言い残すとテンは消えていった。
「あの、兄様はおひとりで行くつもりですか?」
「そのつもりだったけど?」
まだマルタは戻ってきたばっかだしセウロスやイレリアとともに今のファンダイク家に慣れさせようとは考えていた。
マルタとの視線が交わる。
「私も連れて行ってください。迷惑はかけません」
「だけど、魔王領だぞ?」
「かまいません。兄様を一人で向かわせるのは心配なのです。たとえ魔王があのような愛らしい性格だとしても、魔王領は未だ敵の領土。何が起こるかは未知数です」
「それで、俺の護衛でということか?」
「ええ。兄様のレベルは知りませんが、勇者パーティーとして鍛えてきた魔法は役に立つはずです」
ごめん、その成長を妨げていたのが、俺です。
おそらくだけど、俺のほうがレベル高いから護衛の役割が逆転する予感しかない。
「だめ、ですか……?」
不安げに瞳が揺れ始める。
これは……断ったら悪化するやつかな?
日本ではゲームオタク極めすぎてて女っ気皆無だったからこういうときどうすればいいのかわからない。
まあ、でも多分断る場面じゃないか。
「わかった。その代わり離れないでくれよ」
「離れッ……!? はい! お任せください!」
勢いのまま立ち上がったマルタの頬は見るからに赤らんでいる。
「護衛として、対象から離れないのは基本だろ?」
「あっ、ハイ、そうですね……護衛、ですもんね」
弱々しい言葉尻とともにすとんとマルタの身体も椅子に落ちていく。
別に間違ったことは言ってないよな?
「まあ、話し合いの合間に魔王城下の街にも行くつもりだから、実質小旅行だと思ってくれていい」
「ハイ、兄様から離れませんから……」
あれ? 好感度下がるのはまずいんだけどな?
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