第27話 大義名分

 ~勇者視点~


 翌日、マルタはちゃんと宿に戻ってきた。


 ったくニコニコしやがって……勇者に対する忠誠心ってもんがねえのかよ。

 勇者への忠誠心は勇者を選んだ国王に対する忠誠でもある。


 勇者でもない実兄の誘いにはホイホイついていくくせに勇者の俺の命令には嫌な顔をするこいつはもはや精神の反逆者といってもいいのかもしれない。


「何ですか……ジロジロ見ないでください。ちゃんと帰ってきたじゃないですか」

「見てねえよ。さっさと行け」


 ちょうど酒場に降りてきたマルタと目があった瞬間、険悪な雰囲気に包まれた。

 レベルも上がらないくせに生意気に上から目線で話しやがって……聖魔法の威力上げてから話せよ!


 このファンダイク領にいる間も国王からの依頼やダンジョン探索をこなしていたが、明らかに攻略速度が遅くなっていた。

 原因はもちろん、マルタの火力が落ちたこと。


 敵のレベルももちろん上昇してはいるが、俺たち3人はダメージ割合的に成長はすれど弱体化はしていない。しかし、マルタだけ、レベルが上昇していても威力が上昇しないのである。


 レベリングに伴う成長に限界があるなんて聞いたことがない。

 となれば、原因は──


 マルタが意図的に手を抜いている。

 または

 聖魔法は威力に限界値がある。


 大まかにはどちらかだろうな。


「マオト様? どうされました?」


 目の前で酒を飲んでいたセネカが怪訝そうな顔でのぞき込んでくる。


「いや、勇者というものを尊敬しないアホもいるもんだと憂いていただけだ」

「そんな人いるん……いましたね。一人。それも身近に」


 気づくの早いな。

 多分セネカは俺が言及している人物に心当たりがあるんだろう。


「なんへす? ほんなはひひらふのかたは?そんな恥知らずの方が?

「あなたはまず口の中を何とかしてから話しなさい」


 隣で羊肉にがっつくネトの口をセネカが強引にふき取る。

 こうやって見ると勇者パーティーといえど、平和な時間があるものだ。


 あいつがいる時はもっと殺伐としているがな。


「あのようなもの、本当に勇者パーティーに必要な人間ですか?」

「今すぐ国王様に進言して変えてもらいましょうよ!」

「だめだ。あいつの聖魔法は俺たちの目的達成には必須だ。変えることはできない」


 心底むかつくがあいつはこの国唯一の使だ。パーティーから外したくても外せない。

 聖魔法使いの多くは他の魔法を使うことができないという弱点を持っている。しかしあのマルタだけは他の属性の魔法も高水準で放つことができる逸材なのだ。

 能力だけで言えばな。


 ん? いや待てよ? 現状を振り返ってみろ。


 マルタ、戦えていなくないか?


 レベリングしても魔法の威力が上がることはなく、このままの状態が続けば将来的にはいてもいなくても変わらない程度の威力しか放てない女になる。


「別にマルタじゃなくてもいいな……!?」


 あの女。たいして戦闘でも活躍せず! 夜の運動も拒否し! あまつさえ勇者に対する敬愛の意思もない!!


 売国奴一歩手前のクソ女をこの俺の楽園から追放できる!!


「楽しそうですね? いいことでも?」

「ああ、レイアか。ちょうどパーティーの方針が決まってなぁ」


 レイアはおかわりの酒を置くと、俺の隣に座る。


「パーティーの方針ですか。もしかしてもう旅立っちゃうんですか?」

「いや、まだいるよ。俺たちが話していたのはここにいないやつのことだ」

「ああ。ファンダイクのお嬢様ですか……」


 レイアですら声のトーンが下がる存在なのだあいつは。


 こうして改めて比較してみると、レイアが俺に尽くすいい女であることに比べてマルタの無能ぶりが際立つな。


 レイアはただの給仕だ。だが、ただの給仕ではもったいないほどの素質と忠誠心がある。


 俺の命令に逆らわない。マルタと違って。

 俺に対する尊敬の念をボディタッチや言葉で表してくれる。マルタと違って。

 俺の意思をくみ取って命令せずとも酒や夜の部屋を用意してくれる。マルタと違って。


 あまりにも理想的ないい女なので戦闘初心者でもパーティーに加えたいほどだ。そのため、一般人でしかない彼女を勇者パーティーの愚痴のはけ口にしているのが現状だ。


 こいつになら内情を知られたところで誰かに漏らすわけないしな。


「もう。あのクソ女はいらねえ。人事権は俺にあるんだ。適当に理由つけて殺すぞ」

「ですが、マルタを殺すことはできるのでしょうか?」

「魔法もろくに使えなくなってる魔法使いに勇者が負けるとでも?」

「い、いえ! そういうことでは! ただ、彼女、どんなダンジョンでも無傷なんですよね」

「そんなの戦ってないだけだろ」

「で、でもマルタ私の隣に……!」

「リトに隠れてるってことだろ」


 あいつが俺より強いなんてことはあり得ない。弱体化前ですら俺に敵わなかった女が今の俺に勝てるはずはないのだ。


「ヤツはもうパーティーメンバーじゃない。俺の、俺たちの敵だ。いいな?」


 セネカとリトが神妙に頷く。

 ただ、レイアだけが平然とジョッキを傾けていた。


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