第28話 農村遠征
~ヴィル視点~
「以上がネフェル村からの報告です。派遣はいつごろにいたしましょうか?」
「報告ありがとう。派遣は明後日だ。それまでに準備を済ませておいてくれ」
「承知いたしました!」
一礼して兵士長が応接室から出ていった。
今朝、農村のほうからオークの群れが農地近くに現れたとの報告があった。農作業ができないため討伐してほしいとのことだ。間違いなくテトが意図的に差し向けたのだろう。
レイアによると勇者パーティーは今、農村とは反対の方角のダンジョンを探索しているという。
オークが出現したのは俺たちから近く、勇者から遠い地点。
しっかり約束は守っているというわけだ。
加えてネフェル村は俺が転生したての時にトロールを討伐した村。
「ネフェル村か……現状把握もかねて俺も行くとするか」
「何? あの村で何かしたの?」
コーヒーをドリップしながらイレリアが尋ねる。
もうイレリアが会議に参加しているのも日常になったな。会議後のコーヒーも待ち遠しくなっている。
裏の情報網という懸念点はあるが、こうやって元王国軍参謀として協力的なことは普通に喜ばしい。
どこまでブレヴァンの知識があろうとも俺はただの一般日本人男性だ。戦略はもちろん政治や貴族の慣習の細かい部分などを補ってくれるのはありがたい。
コーヒーを口につけてから、イレリアに事情を語った。
「なるほどね……トロールの出現なんて10年に一度あるかないかよ。この村は魔物の通り道に面しているのかしらね」
「魔物の通り道か……あり得るな。ついでに村の防衛についても村長と話すことにしよう。伝令を送っておく」
前にイレリアから教えてもらった知識だが魔物の通り道とは魔物が王国領や他の人類が統治している領に侵入してくる場合に通る、魔力が濃い地帯のことを言うらしい。
まあ獣道のようなものだろう。
「あなたが向かって大丈夫なの?」
「繁華街のほうはお前が目を光らせてくれるから問題ないと思うが」
「違うわ。勇者のこと。レイアちゃんからの手紙読んだんでしょ?」
酒場の娘として勇者パーティーの調査をしているレイアからも定期的に手紙が届いている。そこには、勇者パーティーもマルタを追い出す方向に話が進んでいるようで、パーティーから外す理由を探しているとのこと、そしてパーティーを外されたレイアを殺すと勇者が企んでいることが記載されていた。
「あちらにはレイアが常に目を光らせているし、マルタが勇者に負けることは万が一にもないよ」
「あら、断言するの?」
「ああ」
「信頼してるのね」
「まあな」
「いいわ。どうせ何か企みがあるんでしょう? 町のことは任せなさい」
「助かる」
「あなたがいないうちにこちらも何か企もうかしら」
「企むにしても本人の前で言うなよ」
イレリアはいたずらっぽく笑うとカップを傾けた。
☆
3日後、兵団は農村ネフェル村へたどり着いた。
「──ずいぶん変わったな」
以前訪れた時の埃っぽくさびれたスラムのような雰囲気だった村は見間違えるほど様変わりしていた。
大通りには木造ではあるもののあばら家のような建物は一軒もなく小綺麗な一軒家と香ばしいにおいを立たせる屋台が並んでいた。
「村長から挨拶がございますので少々お待ちください」
村の側にキャンプを作り終えると、俺と兵士長は村長の家の応接室まで案内された。
「こんなに早く来てくださり恐悦至極でございます……!! ヴィル様もセウロス兵士長もこんな辺境までありがとうございます……!!」
「いいんだ。これも領主の務めだ。それに村の視察も兼ねてるからそこまで気負わなくていいから」
机の上に置かれている村長の手は机を割るのではないかという勢いで震えていた。
「変わったな。この村。前が悪いとまでは言わないが衛生面や治安の面で少し不安だったからな」
「そうなんです!! ヴィル様が税率を抑えてくださったおかげで村の財政にも余裕が出てまいりました! よき種によき肥料まで購入する余裕もでき、むしろ麦や野菜が余っているくらいですよ! はっはっは!!」
「それはよかった。豊かな暮らしはそのまま豊かな人生に直結する。これからも頑張ってくれ。だが、農作物が余るというのはもったいないな。商人に売ったりはしていないのか?」
せっかく収穫した農作物だ。腐らせてしまっては経済的にもったいないし、農家のやる気も下がってしまう。手っ取り早いのは専門の商人へ売却することだが……。
「この村は街道から距離がありまして……商人が寄ることが少ないんですよね。そもそも売る機会が少ないので結果的に余らしてしまっているのです」
基本、商人たちは王国各地につながっている街道を通って物資の運搬、販売を行っている。そのため、大きな街は街道に面しており、物資の売買、流通が盛んなのだが、一歩外れてしまうと道もしっかりしておらず、途端に往来が途絶えてしまう。
そのため、街道から外れた村はモノを作っても売ることができず貧困に陥る村が多いという。
加えて街道から外れた村ほど魔物に襲われやすく、危険性の面からも人が寄り付かなくなってしまっているという。
ならば、ならばだ。
「人間でない商人をここに来させればいい」
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