第29話 取引は人間の特権じゃない

「失礼ですが、商人は人間しかいないのでは?」


セウロス兵士長が怪訝な顔で尋ねる。


「ファンダイク領は魔王領に隣接してるだろ? 魔族の商人を呼べばいいのさ」

「魔族……ですか?」


魔物ではなく魔族。人類と同じように言語を操り、理性的な活動をする魔物を魔族と名付けた。今。俺が。


「そうだ。ネフェル村は街道こそないが、魔物の通り道にはなってるだろ? 魔物が来やすい土地なら流通も魔族にさせればいい。魔王からは俺が話をつけとく」

「で、ですが……魔族となると……」


村長は決めかねているようだ。

それも仕方ない。今まで散々苦しめられてきた魔物の領域と交易することになるうえ、今まで以上に魔物が身近な存在になってしまい、襲われる危険性が増えると思っているんだろう。


「安全面は、兵団を派遣して監視させること、商人たちとは村の入り口で取引を行うことでクリアできるはずだ」

「しかし、我が国は魔王領と敵対関係にありますが……」

「責任は俺が取るさ。その分金を多く取ることはないから安心してくれ」

「ヴィル様。私からも質問があります。その魔族とやらは金を持ってるんですかい?」

「通貨はあるさ。ただ単位は違うけど」


ほー、と感心したようにつぶやくとセウロスも黙りこくってしまった。


この世界に為替レートなんてものはないから歴史に倣って金の含有量で交換比率を定める方針で考えている。


村長はなかなか決めかねているようでうーんと唸ると頭を抱えてしまった。


しかし、実際あと1歩、村長が首を縦に振れば物事が進むのだ。


俺を自陣に引き込みたいテトは必ずこの交易計画には乗ってくる。話さえできれば問題はない。


「あの……本当に売れるんですか?」

「もちろん」

「襲わない?」

「もちろん。それに万が一のことがあっても兵団がいる」

「じゃ、じゃあ試しに売ってみましょうか」


村長がまだおびえながらも首を縦に振る。


その後、書類の作成等システム的な手続きを終え、俺たちは兵団のキャンプに戻った。


「じゃ、依頼をこなすか」

「承知いたしました。オークの討伐、でしたな」

「ああ。配置も任せた。ただし、炎魔法は使うなよ。作物が無駄になる」

「よろしいのですか? 相手はオークですよ?」


兵士長が自信を無くしていてどうする。


「兵士たちなら大丈夫だ。そもそも配置も戦術もいらないかもしれないがな」

「と、言いますと?」

「実力差が目に見えているんだよ」



「総員、かかれ!!」


号令とともに兵士たちの雄たけびが農地に響き渡った。

遮蔽もなく平坦な農地だと伏兵を気にする必要がない。純粋な力勝負だ。


相手はオーク。鬼顔の人型の魔物だ。中年男性のように下っ腹が出ている見た目とは裏腹に膂力が高く、ほとんどのオークが両手斧を片手で振り回していた。


その代わり魔法等遠距離攻撃手段がないのが弱点だ。


「撃て!!」


号令とともにオークの群れに魔法が放たれる。


オークの群れが旋風に切り裂かれ、雷に打たれ、足元から凍っていく。

瞬く間に、目も当てられないほどの傷を負ったオークの山が積み上がり、魔力の塵となって消えていった。


オークも敷地の入り口からほとんど動けず、また兵士たちも魔法による遠距離攻撃の身だったため、作物が踏み荒らされることはなかった。

また今回は炎魔法の使用は禁じていたため、総合的な農地への被害は最小限にとどめられた。


「こんなにあっけなく片付くとは……我々は自分の力を見誤っていたようですな」

「まあ、あれだけダンジョンでレベリングしていればな、オークごとき苦戦しないだろうな」


兵士たちの平均レベルは30を超えた。今さら農村を襲うオークに後れを取るほど弱くはないのだ。


しかし、どのオークも無印で五芒星のマークがついた魔物は見当たらない。


「直属の奴がいれば、そいつに手紙を渡せるんだけどな」


こちらが予想だにしていないときにはホイホイ姿を見せるくせに、何か用があるときには姿を見せないのである。


気まぐれというかなんというか、間が悪い。


「ヴィル様、どうされましたかな」


一人で農地を探索していると、セウロスが声をかけてきた。


「兵士たちと戻ったんじゃなかったのか」

「ヴィル様がうろうろしていたのが見えましてね。すぐ戻ってきました。何かお探しですか」

「五芒星のマークがついている魔物をな。そいつに渡したいものがある」


しばらくあぜ道を散策していると、ある畑に、鳥が密集していた。


「あれ、何かわかるか?」

「いえ。私も中心街出身なので農村で起きる現象には詳しくないですな」


明らかにその一か所に小鳥が群がっているのだ。

耳に突き刺さる鳴き声に耐えながら、鳥の群れをかき分けるように進むと、群れの中心に一羽の赤い羽根の鳥が座っていた。


注意深く観察してみると、そのくちばしに五芒星が描かれていた。


「やっぱりいたか」


その鳥の足に手紙を括りつけようとかがんだ瞬間、俺の首の骨がきしんだ。


「頭の上に! 今すぐどけます! じっとしておいてくだされ!」

「いや、おとなしいうちに手紙を括りつけてくれ。まだ耐えられるから」


セウロスが手紙を括りつけている間も、頭の上が気に入ったのか赤い鳥は微塵も動かなかった。


「括りつけましたぞ!」


振りほどこうと手を掲げた瞬間、赤い鳥が飛び立つ。


「イテッ」


鳥にむしられた部分をさすりながら、キャンプに帰ったのだった。


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