第30話 中身の違い

 商談の手紙を赤い鳥に託してから1か月後、国境付近の商人を通して魔王から返信が届いた。


 取引について直接相談したいらしく、こちらを訪ねてくるとのことらしい。


 手紙も硬い言葉遣いで書かれていて、いつものあのふざけたような様子からはかけ離れた魔王らしい雰囲気を感じ取れた。


 それほどまでの問題でも出てきたのかな。


 定例の報告会を終え、自室に戻ると本棚の前で小さい影が何やらもぞもぞと漁っていた。


「何やってんだ。二度目だぞ」

「うおぁ!? お、お主か……驚かせるな!」

「人の部屋に勝手に入ってくんじゃない。不法侵入だろうが」

「そんなもの人間の勝手だろう!」


 バタバタと駄々をこねるテンの首根っこをつかんで応接室まで運んで行った。


「お主らがむずかしいことを話しておったから待っておっただけじゃのに……」

「だったらそこら辺の使用人にでも話しかけてくれ。客人としてもてなすことはできるから」

「なんじゃ。そんなにあの部屋を探られるのが嫌なのか」


 にやにやと笑いながら楽しそうに浮いているテン。


「当たり前だろ。あそこは俺のプライベートスペースなんだよ」

「だからこそ面白いんじゃろう。隠された性癖が見つかるかもしれんからな」

「俺の性癖知ってどうすんだよ! あとあそこには何も隠してないからな!」

「ほんとかのう~?」


 こんのクソガキェ……罠でも仕掛けて痛い目見せてやろうか。


「んで、なんで来た」

「なんでって手紙に書いておるじゃろう」

「来るの早すぎなんだよ!」

「なんじゃ!? まだ届いてないのかっ!?」

「届いてるけど昨日なんだよ」


 こいつ手紙ってシステムを理解してないだろ。そんなメールじゃあるまいし爆速で届くわけないんだよ!


「まあ、早まっただけだからよしとするか……」


 ワープか何かは分からないが一瞬で移動できるコイツには手紙なんてものの常識はないんだろうな。うん。そう思おう。


「んで取引のことなんだが」

「ああ、そうじゃったな。おまえたちから食糧を買えるのは正直ありがたい。だがの、一方的に金が動くのは気にいらん」


 テンが言うには取引は歓迎するが金の流出は避けたいと言うことだろう。

 領主として至極当然の主張だろう。

 金が無くなれば自領で鋳造せざるを得ないが、金属資源も無限じゃない。いつか限界がくる。資源も資金も尽きてしまう。だから買うだけでなく売ることでお金の釣り合いを取ろうという考えだろう。


 細かいシステム的なことは専門外だが、大体こんな感じの考えだろう。


「ということでの、我が領土の産品も買え」

「輸入と輸出があってこその交易だ。いいぞ。それで、何を売りたい?」


 魔王領は山岳地帯に荒野、沼地とあまり産業に適しているとは言えないエリアが大半を占めている。その上、言葉を話し、思考することのできる魔物はごくわずかだ。こうやってテンから話を聞くまでは産業や経済からはかけ離れいると思い込んでいたな。


「鉱石じゃ。鉄から銅、アダマンタイトまで広く買い取ってもらいたい」

「一応言っておくけど、敵国の領土内ではあるぞ」


 鉱石系、金属物資はもちろん武器として活用できるうえ、原料をインゴットに加工するだけでも十分利益の出る代物だ。


 ブレヴァン内でも鉱山クエストの副産物の金鉱石を加工して販売すると鉱石の値段の5倍で売れる裏技金策が流行ってたくらいには金を増やす手段として強力なのである。


 おまけにファンダイク領は俺が治めていると言えど魔王領の敵国だ。魔王領に金が入ってくるとはいえ敵に塩を送るような真似をしてもいいはずがない。


 魔王は足を組みなおすとこう断言した。


「問題ない」

「理由は?」

「一般兵ごときが強化されたところでゴブリン程度しか倒せんよ。それにお主なら他の者共に売るわけないと思っておるしの」

「もし俺が鉱石を売り渡したら?」

「その時はその時じゃ。存分にり合おうぞ」


 魔王から放たれる魔力に空間が悲鳴を上げる。

 やはりまだこの圧には慣れない。


 多分、普段の行いのせいだとは思うけど。


 俺は大きく息を吐いた。


「OK。鉱石類はこちらで買い取らせてもらう。これでいいな?」

「うむ! はー魔王業もつかれるのう……」


 テンは背もたれに全体重を預けるとそのままずるずると溶けるようにずり落ちていく。


「そこまでくつろぐか?」

「いやの~お主の前じゃとくつろげるんじゃよね~魂がそうさせてるのかの~?」

「魂?」


 スピリチュアルな話になってきたな。


「人間にも魔物にも核となる魂があるのは知っているじゃろ?」

「いや、初耳なんだが」

「そうか、人間では習わないのかの? 我が我、お主がお主たる中核をなしているのが魂じゃ。一人ひとり、魂の波長は異なるが大まかな特徴が各種族にはあっての、我のような魂を知覚できる存在はその波長で個人を特定できるんじゃ」

「それで、俺が落ち着くような波長だってことか」


 うーん、とテンが唸る。


「お主の魂、他の人間どもと根本が異なるというか……人間らしくないんじゃよな。お主、何者じゃ?」

「ただの貴族だ。国賊よりのな」


 今はまだ。今はまだ転生のことを明かすべきではないし、今後も明かしたくはない。

 明晰夢みたいなもんだ。この世界の存在が俺を転生者として認めた瞬間に、この世界が変動してしまうことだけは避けたいのだ。


 俺がヴィルであり続けるために。


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【あとがき】


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