第26話 未来のはなし
「あなたは……何者ですか?」
「何者って言われてもねぇ? ヴィル?」
「兄様は答えないでください! ろくでもない女でしたら全力で排除いたしますので!」
兄様もニヤニヤしながらコーヒー飲んでる場合じゃないでしょ!
このファンダイク領の主であり、私の兄である兄様が! たぶらかされたとあれば! 大問題でしょう!?
「正直に答えなさい。いつでもあなたの自由を奪う準備はできていますから。名前と職業、それと兄様との関係を答えなさい」
見極めなら任せてください。男に媚びる女の顔なら嫌と言うほど見てきましたから。
しかし、私のことなど全く意に介していないようにその女店主は優雅にコーヒーを楽しんでいました。
「答えてやれよ」
「いやあ反応が面白くてね。でもそっか。王室の儀式とかでも直接会ったことはないわよね。あたしはイレリア。元王国軍参謀だけど今はただのバー店主よ」
イレリア、イレリア!? あの軍師イレリア様!?
「し、失礼いたしました……!! ですが、なぜ!?」
「経験値ダンジョンの管理者だからだな。兵団がダンジョンで訓練してたのは知ってるだろ?」
確かに兄様からの手紙には経験値ダンジョンなる育成特化型ダンジョンで訓練していたのは知っています。ですが、なぜ今も関係を? ダンジョンのカギを渡すだけの関係でよかったのでは?
「でもそれにしては仲良さそうじゃないですかあ……!」
「そうか?」
「答えてやりなよ。あたしたちの仲の良さってやつ」
「やっぱり!! 兄様、マルタは悲しいです~!!」
マルタを差し置いていつの間にこんな女こさえたんですかあ! 手紙でもいいから教えてくれればよかったのに!!
「あっはははは!!! 冗談よ。冗談。ただの協力者。妹さんが思っているような色恋は発生しないから安心しなさい」
「兄様!! この人嫌いですぅ!! 何ですかこの人!!!」
「……仲良くしてくれ」
地位でも実力でも言い返せないのがまた……嫌!
で、でもまだ色恋でないだけ救われました……。大丈夫、ダイジョウブ。私の心はまだ破壊されてない……!
「いやあ、ヴィルはいい妹を持ったね。愛が深いじゃないか。私が入る隙なんてないわ」
「もとからありません! 適切な距離でお願いします!」
「適切ってのはこのくらいかな?」
イレリア様がずいっとカウンターから身を乗り出しました。
か、顔が近い……!
イレリア様のキリリとした凛々しい顔が互いの息が混ざり合うほどの距離まで近づいてきました。
「て、適切じゃないですよ!」
「ふうん。ヴィルに似ずにかわいい顔してるねえ。食べちゃいたい」
「なっ……!!」
イレリア様、女の子にも気があるのですか!?
いたずらそうに微笑むイレリアさんを見かねたのか、兄様がため息をつきながら引きはがしてくれました。
「遊ぶのはそのくらいにしてくれ。もうマルタのライフは0だ」
「はいはい。またゆっくり話そうね」
「は、はひぃ……」
わかります。私の顔が熱くなっているのが触らなくてもわかります……。
「それでだ。今後の自分の身については、わかってるよな?」
「もちろんです。追放されればよろしいのでしょう?」
「結果だけ言えばそうだな。手紙でも聞いたが耐えられるか?」
兄様はおそらく私が聖魔法を封印するにあたって勇者から受けるであろう嫌がらせに耐えられるかを知りたいのでしょう。
「兄様のお側に戻ってくるためとあらば耐えることはできますし、そもそも勇者の実力では暴行を加えようにも私の身体に指一本も触れることはできないでしょう」
私のほうがレベルが高いのですから、彼が私の魔力壁を突破できるはずがありません。
しかし、自信があると言っても、兄様の眉間のしわは深く刻まれたままでした。
「レイアに見張らせているから寝込みを襲われることはないんだが……誘拐だけ気を付けてくれ。最悪、こちらから手を出すことができなくなる」
兄様が言うには、誘拐されて私が人質となって交渉を進められることが最悪のケースらしく、拘束系の魔法にはくれぐれも気をつけろとのことでした。
「でもなぁ……ストーリーを進めるピースがないんだよな……」
「ピース、ですか?」
「ああ。今のところ協力者たちのおかげで計画の最終段階だけは完成しているんだが、
兄様によると待てばその時が来る可能性が高いものの、確実ではないそうで、その誘導を確実にするための策が考え付かないとのこと。
「そこまであんたのこと欲しがってるってことよ。このシスコン野郎はね」
「誰がシスコンだ。未来を先読みした結果だって言っただろうが」
「未来、ですか?」
私が聞き返した瞬間、二人の顔が気まずそうにゆがみました。
なんでしょう、仲良さげなのむかつきますね……。
兄様は正面から私を見据えると、こう言いました。
「俺は殺される運命にある。それもマルタに」
「わ、たし……?」
混乱する身体を鎮めようと含んだコーヒーは冷めきっていて、しびれるような苦みが背筋を走りました。
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