第25話 デートって二人きりのはずですよね?
~マルタ視点~
「兄様!! お久しぶりです!!」
感激のあまり年甲斐もなく抱き着いてしまいましたが、兄様は笑って受け入れてくださいました。
「手紙ではやり取りしてたから久しぶりには感じないな。元気にしてたか?」
「心身ともに元気ですよ。しいて言えば兄様にお会いできない寂しさで精神がおかしくなってることぐらいでしょうか」
「──元気そうでよかったよ。それよりもその服……」
「今日のために新調してまいりました……どう、でしょうか?」
「すごく似合ってる。かわいいよ」
「ありがとうございます!!」
あーもう、ほんっとこういうところがズルいんですよね!! 何事もないようにさらっとかわいいとか言って!! なんというかもう、ありがとうございます!! ごちそうさまです!!
いけません。このテンション感ですとデート中何回か気絶することになります。もったいない……自重しなければ。
「今日のために新調してまいりました。こういった機会でないとお金を使いませんから」
今日は、兄様とのデートなのです。古びた服で向かうほど世間知らずではありません。兄様の隣に並ぶにはやはり新調した服でないとふさわしくありません。
フリルのついた白のブラウスに、シンプルな柄のロングスカートと、豪華ではない見た目ですが、生地も最高級のものですし、デザインもファンダイク家御用達の職人に依頼した高級品です。
初めはフリルや装飾が多めのドレスにしようとしましたが、レイアに必死に止められたんですよね。派手すぎますって言われましたけど、派手で何が悪いんでしょう?
兄様はこのファンダイク領の主なのです。その存在を民に知らしめるためにも派手であるほうが良いと思ったのですが……。まあ、半泣きで止められたので諦めました。
「どこ行きたい? まあ、あまり変わらない街だけど新商品くらいはどの店も置いてあるんじゃないかな」
「私は別に兄様の隣で歩くことができるならどこへでも行きますけど……」
正直、恋人のように手をつないだり、食べ歩きしたり、食べさせ合いとかしたいです!! でも、実の兄に! 言うのはちょっと、恥ずかしい……!!
「じゃあ少し歩くか。屋台もあるみたいだし。食いながら考えよう」
「──はい!!」
兄様には私の心などお見通しなのでしょうか? 食べ歩きから、食べさせ合いまで達成できるかもしれません!!
堂々と歩く兄様に連れ添うように大通りを歩いていきます。
道端に並ぶ屋台から肉や野菜の焼ける香ばしいにおいが大通りを包んでいました。
「これ! 羊肉の串焼きですか。兄様、どうでしょう?」
「いいな。小腹も減ったし。おやっさん、これ二つ」
「あいよ!! ってヴィル様!? それにマルタ様も!?」
「お忍びではないが、普段通りの接客で頼む」
唇に人差し指を当てて、ささやき声……!
レアな兄様のしぐさが見れました!!
手渡された串からは真珠のような肉汁が滴り、立ち上る湯気からは炭のほろ苦いにおいが鼻腔をくすぐります。
「……兄様ッ!!」
怪訝な顔の兄様と目があいました。
その顔もするでしょう。なんの脈絡もなく口元に串を差し出されているのですから!!
でも、自分から言うのはなんか恥ずかしい!! 実の兄に乙女的な妄想を実現しようとしてるとか兄様に知られるのは、まだ心の準備が足りない……!
プルプルと震えながら串を差し出す私に兄様の視線が痛いくらいに刺さります。
や、やっぱ変ですよね……。
「ああ、そういうことか。漫画みたいなことねだってくるんだな」
「へ? まんが……?」
「いや、忘れてくれ。いただくよ。あーん……」
に、兄様が私が差し出した串を……!?
「うまいな。これ。」
「あ、あああありがとうございます……?」
「じゃあ、はい」
ずいっと兄様の串が差し出されました。
こ、これはもしや……! お兄様からあーんしてもらえる……!?
「マルタが持ってた串は俺が食べちゃったから。こっちあげるわ」
「そ、そうですよね……はは。ありがとうございます……」
まあ、兄様のやさしさを感じられただけで良しとしましょう。涙、まだ出てきてはだめです。寸止めされた悔し涙は宿に戻ってから出てください。
その後も私と兄様はブティックや魔導書店などを回り、かけがえのないひと時を楽しみました。
そろそろデートも終わりですかね。日も傾いていますし。
私としては兄様に魔導書を買ってもらったりしてもはや満足を通り越して至福なのですが、兄様はまだ向かいたい場所があるようです。
「少し話したいことがあるから、ゆっくりできる場所に行こうか」
「話、ですか?」
「今後のね。外で話せる程度のものだけどな」
そういうと兄様は大通りから狭い路地へと入っていきます。
「ここだ。バーなんだけど昼間からやってるし、コーヒーとかソフトドリンクも多いからゆっくりしたいときによく来てる」
見た目はとても貴族の当主が好んで通うような店には見えないほど。
でもこういった隠れ家的バーに通われている兄様もまた、良い。
兄様は臆することなく奥のカウンターまで進むと、ちょうどしゃがんで作業していた店主に声を掛けました。
「イレリアー、コーヒー2つ頼む」
「あれ? 今日妹さんとのデートじゃなかった?」
私はこの会話で確信しました。
店主の女性と兄様はただならぬ仲であると。
気づいた時には身体が動いていました。
「兄様は渡しませんッ!!」
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