第24話 隷属の指輪
~勇者視点~
「でさ~俺が倒してやってんのにあの女、私も聖魔法発動してますからって、頑張ってます風な雰囲気出してさぁ。感謝すらしないんだぜ? 感謝の品として胸くらいいいだろうよ。減るもんじゃねえし」
「そうですね~。だって一番活躍されているのがマオト様なんでしょう? 体は無理でも何か感謝の品くらい渡せばいいと思いますね~」
俺は何度もうなづくとエールを喉に流し込む。
やっぱそうだよなあ!? たかが聖魔法ごときで働いてる気になってさあ!? 最近はその聖魔法も威力が下がったのか何なのかわかんねえけど発動したのかもわかんねえし。
そもそも魔物相手に何で魔術しか使えねえんだあいつは!!
「相手が魔物なんだから魔法より物理攻撃のほうがダメージが出るんだろ!? なあレイア? それなのになんであいつは魔法しか打たねえんだ? 頭湧いてんのか?」
レイアは空になったジョッキにエールを注ぎなおすと、俺の隣に座ってきた。
彼女のなすがままに、膝枕の体勢になる。
アルコールで揺れる視界の半分が豊かな双丘で埋まる。
給仕服で気づきにくかったけど、女性らしい曲線を描く腰回りといい、安産型の尻といい、レイアもなかなかいいな。
レイアは俺が落ち着くのを見計らって、頭をなで始めた。
「そうですねー。体術なんて訓練すればできますものね。あー私だったら体術は習いましたし、マオト様にこんな思いさせることはないのにー」
「そんなこと言うなよォー欲しくなるだろォ!」
「もっとあなたのこと、教えてくださったら、考えないことも
ないですよ?」
彼女の小悪魔的な笑みに、酒で弱体化された脳は耐えきれなかった。
ああ、くそ誘ってんのか……? 今すぐ部屋に連れ込みてぇ……。
ただでさえこの酒場も騒々しいんだ。二人でゆっくりしっぽりするには個室しかない!
誘うのビビってる場合じゃねえよなぁ!?
大興奮、フィーバーお祭り状態の心をできるだけ押し込みながら彼女の顔に手を伸ばした。
「お前みたいな俺を勇者として敬って、従順な女をパーティーに入れればよかったよ」
「あとの二人はマオト様を尊敬してるのではなくて?」
「全員じゃなきゃ意味ねえんだよ。お前、みんな楽しく座ってショー見てんのにひとりだけ立ってたらむかつくだろ? そういうこと」
「そういうものですかー」
間延びするような声で相槌を打つレイアの顔をぐい、と俺の顔に寄せる。
「んじゃーあー、今からぁ、俺とパーティー加入試験しようかぁ」
「加入試験ですかぁ。魔物とか倒したことないですよ?」
「大丈夫だよぉ。俺の部屋でちょっと面接するだけだからさあ」
「えーどうしよっかなあ」
クソ、意外にガード硬いな。
まあでも俺は勇者だ。肩書と金と力、何でもある。
「勇者パーティーの一員になれるんだぜ? 魔物との戦い方も俺を見ていれば理解できる。こんな名誉なことないんだぜ? 他の奴らは国が集めた精鋭だ。でも俺自身が選んだのはお前だけ。特別な人間になれるんだぜ?」
「ですが、酒場の店主にも恩義はありますし……」
「ああくそじれってえな」
起き上がり、ジョッキを傾ける。
こいつこんなに優柔不断だったか? クソ、俺は勇者だ。手に入らないものなんてないはずなのに……どうしてこうも簡単に手に入らない!?
いっそのこと強引に部屋に連れて行こうかとレイアの腰に腕を回した瞬間、気まずそうな咳払いが聞こえた。
「少々、よろしいでしょうか。ここは公共の場、わきまえた行動をすべきかと」
「なんだよ。てめえが何でここにいるんだマルタ」
目の前にいたのは、入れ替え候補のマルタ。
相変わらずクソまじめなこと言いやがって……せっかくいいところだったのに。
「明日、私は兄様に挨拶に行きます。その報告で来ました」
「挨拶ぅ? いらんだろそんなもん。そう言ってその愛しの兄様に逃がしてもらう寸法なんじゃねえの?」
「兄様は国王から任命された貴族、ファンダイク家当主です。1年も滞在しておいて国王の名代で活動している我々が挨拶もしないのは印象が悪くなります。たまには公私混同をやめてみてはいかがですか?」
言いたい放題しやがって……。
「でも何でお前だけで行くんだよ」
「どうせマオト様は兄様に会いたがらないでしょうし、他のお二人は貴族のしきたりからは無縁の者たちです。勇者パーティーとしての正式な挨拶周りには私が適任だと考えました」
確かに、俺はそんなめんどくさいことをしたくないしする必要もないとは思っている。
それにネトもセネカも貴族出身ではない。
合理的に考えればマルタが適任なのも腹立つ上、このまま彼女に挨拶に行かせてしまいそうになる俺にも腹が立つ。
「ああクソ……その代わり条件がある。レイアも一緒に俺の部屋に来い」
部屋に戻るとバックパックから指輪を取り出した。
「これは『隷属の指輪』だ。使用者の魔力を注ぎ込むことによって着けている者を追跡できる代物だ。挨拶に行っている間、お前はこれを着けろ。逃げようとしたらばれるからな」
「その程度でしたら。問題ありません。では、明日から行ってまいりますので」
何食わぬ顔で指輪を右小指に通すと、すまし顔のままマルタは部屋から去っていった。
「クソ……なぜ動揺しない!? 抵抗もない!? あぁむかつくなぁ!!」
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