第4話 使用人会議

 俺がファンダイクに転生して1か月。

 ファンダイク邸では使用人たちの会議があった。


「最近、ヴィル様の様子がおかしい」

「やっぱそうよね? 私たちに休めって言うなんて。以前のヴィル様だったらありえないわ」

「私たちの食事にまで気を配ってくださって、ちゃんと3食食べられるようになったしね」

「なんでこんなにも急に優しくなられたのかしら?」

「私たち、変なものでも食べさせたかしら?」

「ま、優しくなってよかったわ。今のヴィル様の方が好きよ」

「それはそう」


 一方、ファンダイク邸横の訓練場でも兵士たちが噂しあっていた。


「なあ、聞いたか? 勇者に負けて帰ってきたのに処刑なしだってよ」

「マジか!? この前なんて遠征に言った奴ら全員殺されてたのに」

「それに毎日の訓練は8時間、週1日以上の休息を規則として定めたってさ」

「なんだそれ……地獄が天国にリフォームされたんだけど」

「それに今までの過重労働の礼として、残業分の賃金が支給されたぞ」

「本当か!? 知らなかったんだけど!!」

「ほら、早くもらってこい!! もったいねえぞ!!」

「……でもなんで急に変わったんだ?」

「あまり詮索はするなよ。今の環境に不満はないし下手に探ってまた地獄に戻りたくないだろ?」

「それもそうだな」

「この天国を守るためにも今まで以上に真面目に働こうや」

「優しくなったヴィル様のままでいてほしいからな」

「今のヴィル様のもとだったら死んでも後悔ねえ」


 とまあこんな具合でものの1か月で使用人のヴィルへの評価は爆上がりしていた。


 当の本人は、使用人たちの評価などつゆ知らず日々頭を抱えていた。


「勇者が来るまであと7年……兵士たちだけじゃなくて俺も強くならないと……」


 ☆

 ~ヴィル視点~


「農村で街頭調査ですか?」

「ああ。帳簿で大体の税率は把握したから、実際に領民の生活を見て文化的な生活ができているか調査したい」


 そう言うとレイアは目を見開いた。


 ここ一か月でここ1年の帳簿を読み漁り、平均税収と支出、そして大体の横領金額まで把握できた。

 もし、税金が原因で貧困に陥っている領民が多いならば、税率を下げる理由を領民の救済にしておけば正当化できる。

 万が一生活に困っていなさそうなら……何か正当化できる理由を考えればいい。


「では先方に訪問の旨を伝えてきます」

「いや、いい。今回は極秘でいく」


 部屋を出ようとしたレイアが非常口のような恰好で固まっていた。


「で、では護衛も最小限にいたします」


 今まで畏怖の対象だったであろう男に本音を話すわけがないからな。

 そんな勇気のあるやつがいれば、ヴィルが黙ってないだろうからな。


 俺とレイアは旅人に扮し、農村に向かった。


「ここがメインストリートのようですね」


 メインストリートといっても村で一番大きい道に宿屋と住民向けの商店がすこし並んでいるだけ。

 それでも、この領地の約7割がこのような農村で暮らしている。


 農村の街並みは、世界史の教科書で見るような中世の農村をさらにひどくしたようだった。

 築年数のたった掘っ立て小屋が並び、そこかしこからヘドロと獣の匂いが混じったような悪臭がする。

 この町で一番大きい宿屋兼酒場の建物でさえ、築年数のかなり立った木造建築だ。


 行き交っている住民たちも心なしか顔がやつれ生気を感じられない。


「酒場に行くぞ」

「承知いたしました。ヴィル様」

「あと、酒場の中で俺の名前を出さないでくれよ。バレたくない」

「お任せください。旅人様」

「それも変だけどな」


 酒場のドアを開くとキツい酒の匂いに乗って、怒号が聞こえてきた。


 無視して店の奥のカウンターへ向かう。


「初見さんだね。旅人かい?」

「まあな」


 酒場のマスターはドワーフのような男だった。


「酒は何にする? エールか?」

「じゃあそれで」


 エールは、まあビールだろうな。


 しばらくすると俺とレイアの前に樽のようなジョッキに注がれたエールが出てくる。


「なあ、この村に来たの初めてなんだよ。色々質問していいか?」

「ああ、いいぜ。何もない村に質問があればだけどな」


 俺はあたりを見回すと、酒をあおる。


「この村に来る前にも様々な街を巡ってきたんだ。ファンダイク領以外の街にもな」

「どうだ? 他に比べて何もないだろう?」

「まあな。それよりも活気がない。大丈夫か?」

「大丈夫とは?」

「あんたらが満足に生活できてるかってことだ。まあ話したくなければ話さなくていい」


 マスターは新たに来た客にジョッキを渡すと、眉間にしわを寄せる。


「今の生活に満足かと言われれば、そうじゃねえ。ぶっちゃけ酒場と畑を兼業している俺でさえもキツい」

「税金か」

「収穫物の8割、売り上げの7割を領主様に持ってかれるからな。俺たち農民は明日を生きるだけで精いっぱいさ」


 屋敷の帳簿では農村から収穫物の6割を徴収しているはずである。

 支出は5割、貯蓄に1割。

 そして証言と帳簿の差の2割分が横領された税金。


「だからあんたみたいな外の人間が酒を飲んでくれるだけでもありがたいのさ。小遣いが増えるんでね」


 そう言うとマスターは壁にかかっているメニュー表に視線を向けた。

 まあ、このような環境を作ったのは領主であるヴィルの責任だ。

 お詫びの第一歩として飲みまくるかな。


「もう一杯エールを頼む。レイア、お前は何か飲むか?」


 さっきから一度も会話に加わっていなかった彼女の方を向く。


「はえ~? なんれす?」


 耳まで真っ赤に染まった顔にろれつの回っていない舌、そして空のジョッキ。

 完全に出来上がっていた。


「大丈夫かお前」

「だいじょうぶれすよ~おまかせくださいヴィルさま~」


 瞬間、騒がしかった酒場が静まり返る。


「ほえ? なにかやっちゃいましたっけ~あ、エールくださ~い」


 ただ呑気に酒をせがむレイアの声が響いていた。



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