第46話 入れ替え

 ~テン視点~


「てな訳でまたお主のところに来てみた」

「何がてな訳だ。マオトに会ったことを報告しに来るとか皮肉ってんのか?」

「いやー奴も難儀な男じゃな」

「はぐらかすな。来たなら話した内容ぐらい教えろ」


 目の前でしかめっ面で紅茶を飲むこやつはどこからどう見てもヴィル・ファンダイク本人じゃ。

 我は幼少のこいつを知らんから癖や匂いは判別がつかん。


 ただ魔力をたどってみてもあの元勇者ほど魂周辺と身体の波長に違和感がない。


「教える前にお主に協力してほしいことがあっての」

「協力? それは、魔王としての要請か?」


 砕けた雰囲気が一瞬で鎮まる。

 相変わらず切り替えが早い男じゃの。


「どちらかというと個人的なものじゃな。お主に関することじゃけど」

「──内容は?」

「話が早いの。お主の魂、見せてもらうぞ」

「魂?」


 元勇者と同じ反応しおったわ。


 やはり人間には魂などの存在は認知されてないのかもしれんの。


「お主の保有魔力に紐づいた潜在意識じゃ。ちょっと聞きたいことがあっての」

「目的は?」

「魂の波長と肉体に残った魔力の差異を調べたいんじゃが」

「なんだお前……急に知能上がったのか?」

「失礼な! 魔王じゃぞ!!」


 テーブルから浮上し、勢いのままヴィルの胸倉をつかもうとした手が彼の腕で差し止められる。


「なんで止めるんじゃ!」

「そりゃ止めるだろ! 了承してねえって!」

「了承するんじゃ!」

「……危害は加えないんだな?」

「加えない。魔王の口は嘘をつかん」

「……結果は伝えろよ」


 渋々といった雰囲気で我の腕を開放する。


「ではゆくぞ」


 ヴィルの胸に手を添え、中の魔力を引っ張り出すイメージで腕を縮める。


 でかいな。これだけの保有魔力はもはや才能だな。


 ずるりと胸から引き出された魔力の塊はふよふよと胸の前からヴィルの顔の位置まで浮かんでいくとぺかぺかと光始めた。


 元勇者とは違う波長が均整の美しい光だった。


「……ンナッ」

「お主の口、借りるぞ。魂よ。名は言えるか?」

「何か変な感じだナ……名前? 『  』ダ」

「……なんて?」

「『  』」


 何度か聞き直したがどうしても名前の部分が聞き取れない。

 名前は個人を個人たらしめる基礎だ。深層意識である魂ですら認識しているはずの概念であるはずなのだ。


「ああ、しゃべりにくいナ。で? これが魂状態ってことカ?」

「お主、そのまま記憶もっとるんか!?」


 はっきりしゃべるのもこちらを認識しているのも想定外じゃ。

 魂の強度か? 魔力の塊である我ら魔族と同等かそれ以上じゃぞ?


「記憶持ってるっテ……当然じゃないのカ?」

「な訳なかろう。まあ、好都合ではある。いくつか尋ねるぞ。よいな?」

「どんとこイ!!」

「なんでそうテンション高いんじゃお主は……ではいくぞ。お主、妹の名前は?」

「妹ォ? いないだロ」


 やはりか。

 コイツも本来のヴィル・ファンダイクではない魂が混在しておる。

 そいつの名前が聞き取れない言語で発話されているやつじゃろう。


 ということは元勇者の身体に入っていた魂がヴィル・ファンダイクであるということは確定になる。


「お主、肩書は?」

「『  』ダ。しがない『  』サ」

「……やはり聞き取れないか。勇者ではないのか?」

「何言ってんダ。勇者を迎え撃つためにダンジョン化までしたヤツに言うカ?」


 勇者ではないか。

 では、こやつは誰だ?

 そして元勇者の魂はどこにおる?


「ヴィル・ファンダイクに聞き覚えは?」

「ヴィル・ファンダイクはブレヴァンの悪役だろうガ」

「ブレヴァン?」

「知らないのカ? あれ最高のゲームだゾ! 機器もソフトも貸してやるから一度やてみロ!」

「う、うむ……」


『ブレヴァン』に『ゲーム』──こやつから発せられた単語に聞き覚えもないし意味を推測することも不可能だ。

 魂は……異国の人間か?

 それとも──。


 ☆


 ~ヴィル視点~


 その感覚はどこか懐かしかった。

 童心に帰ったような、日本にいる時のような、そんな感覚だった。


 魂、潜在意識と言われたがさほど違和感がない。

 強いて言うなら少し脳内がぼやけているような感覚が続いていることぐらいか。


 神妙な面持ちなテンからの質問にいくつか答えていく。


 時折、首を傾げたり聞き返したりしていたが、おおむね聞きたい情報は聞けたようだった。


「もういいぞ。協力感謝する」


 魂が身体に戻され、頭の靄が晴れる。


「それで、結果は?」

「お主のことがますます分からなくなったわ」

「なんだそれ。いつも通りしゃべってただろ?」

「やはりか……」


 テンは口をつぐんで考え込んでしまった。


 こちらとしては何がやはりなのかも魂まで呼び出して何がしたのかもわかっていない。

 何を言おうとしても的外れになりそうで、何も言えなかった。


 しばらくしたのち、意を決したようにテンが口を開いた。


「お主、この国の人間じゃないじゃろ」


─────────────────────────────────────

【あとがき】


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