第45話 魂の憎悪
〜元勇者視点〜
脱出から2ヶ月が過ぎた。
野良の魔物を討伐し、素材を闇市に売り金を得る。
その繰り返しの毎日だ。
コツコツと貯めた金は装備と食料と娼館に消えていって、手持ちはほとんどない。
元来から客に詮索しないことが暗黙の了解となっている娼館は逃亡犯になっちまった俺には好都合な隠れ場所だ。
宿屋より少し高い料金さえ払えば安全と女が手に入る。
「クソ……」
酒場のカウンターで勢いよくエールをあおる。
時刻はまだ夜とは言えない。
娼館が開いていないため、持て余した時間を酒で潰している。
最近になってようやく装備が整い、金銭に余裕が出てきた。
アイツらを殺し尽くすにはまだレベルも装備も貧弱だ。
だがもう少しだ。あと少しで全てが揃う。
「耐えろ……耐えればまた、俺が勇者に……!」
陥れたあの貴族を殺し、マルタに証言させて俺に対する嫌疑が晴れればまた勇者に戻れるかもしれない。
「魔王を殺せるのは、俺だけなんだよ……!」
「ほう? デカい夢じゃな」
「誰だ」
見た目は少女とも幼女とも言えない。
その女は席によじ登ると、マスターに酒を注文した。
「久しぶりじゃな。隣いいかの?」
「いつぞやのガキじゃねぇか」
「失礼な! これでも貴様よりは生きておるわ!」
はぁ? 年上かよ。ロリババアには興味ねぇ。
「お前と飲む気分じゃない。帰れ」
「別にお主と飲むわけじゃない。勝手に座らせてもらうぞ」
背の高いカウンターのスツールにちょこんと座り、ジョッキを抱えるようにして飲む姿は汗臭い男どもばかりの酒場から浮いていた。
「てめえはなんでいるんだよ」
「魔力の痕跡を辿ってきた」
「魔力? お前もう酔ったんじゃねえか?」
そんな魔法はない。そもそも人間は魔力をもつものと物理的に触れてなければ知覚できない上、魔力を識別するなんて芸当、上級魔法使いでも不可能だ。
「こうしてお主とまた会っている事実が証拠じゃ。地脈と接続したのであろう?」
「なるほどテメェ人間じゃねえな」
「さあの? で、どうなのだ?」
「したよ。俺の魔力にした」
意図がわからない。
なぜ俺を追ってくるのか。
なぜ人外が俺に興味を示したのか。
心の底から警戒感がむくむくと育っていく。
「ふむ。ならできるかの」
「何が?」
いつでも魔法を発動できるよう身構える。
「お主、我が前に言ったことは覚えておるかの?」
「覚えてるわけねえだろ。あれからどんな目にあったと思ってんだ」
「魂の話じゃよ。ほれ」
なんかそんなこと言われた記憶がうっすらとある。
だけど魂なんてオカルトじみた話、俺は信じない。
というよりもそんな話信じてるなら、俺が勇者に戻る可能性を信じたほうが遥かにマシだ。
「魂とかそういう胡散臭い話をするなら帰れ」
「胡散臭くないわい! ええい勝手にやるからな!」
女は俺の胸に手を置くと、何かを引き抜こうとするかのようにこぶしを握り腕を引いた。
「己の身体で実感するといい。魂というものをな」
目の前で不可解な現象が発生していた。
何色とも言えない光の塊が胸で輝いているのだ。
2種類の点滅を交互に行いながらふわふわと浮かんでいる。
「これが魂、厳密にはお主の保有魔力に紐づいた深層意識みたいなもんじゃな」
「んな馬鹿な……」
「まだ信じれないのかの? なら魔法を発動してみるといい」
「ここでか?」
ここはただの酒場だ。魔法を発動できるようなスペースも強度もあるわけない。
だが、自信ありげにせかす女に促されるようにして魔法を発動してしまった。
「『ファイア』……出ない?」
「魂は保有魔力だと言ったじゃろう? 今のお主は燃料も着火剤もない焚き火台のようなもんじゃ。ほれ、少し体を借りるぞ」
女は俺の頭を鷲掴みにすると滝のような魔力を注入してきた。
「な、に……してんだよ……!」
「お主の魂に聞きたいことがあるんじゃ。黙ってろ」
深刻そうな面持ちの女の顔面が最後の記憶だった。
☆
~テン視点~
ごちゃごちゃ言っていたこやつもおとなしく意識を失っておる。
「あー、あー聞こえるかの?」
「セ……カエセ……カラダ」
「お主が借りているみたいなもんなんだがの。で、名は何と言う」
こやつに出会ってから我が感じていた違和感、体と魂の不一致という問題で正しいのかどうか。
「俺ハ……ヴィル。ヴィル・ファンダイクである……!! カラダヲ返セェ!!」
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