第66話 魔族とて生命体の模倣である
魔王城から出た俺たちは中央広場を抜け、商店が立ち並ぶ通りに入っていった。
「気になりますか。あのガラテアっていう方」
「うーん、気になるというか魔物らしくないから違和感を感じているというか」
「魔物らしくない、ですか」
うん、と頷き周りを見渡す。
ファンダイク領と何も変わらないような通りに、テラス席のついた店や露店が並んでおり、様々な色や形の魔族が行き交っていた。
「一部の石像型やメカニックな種族以外の魔物は基本的に俺たちのような『生物』と行動原理や所作が似通っているのは体感的にわかるだろ? でも彼女、ガラテアは動作が機械じみていた。機械系統の魔族なのかもしれないが。であるなら精巧すぎる。機械部分が一切見当たらない」
「服で隠しているのではないでしょうか。袖もスカートも長いドレスを着ていましたし」
「だとしても肌の質感が人間的すぎるんだよ」
この世界に現代日本のような触感まで再現されたフィギュアは存在しない。というかそもそもゴムもシリコンもプラスチックもない世界だ。木材と石材では不可能なのである。
それは魔族においても同様だ。機械系統の魔物は木材や石材、あるいは金属片で構成されておりその外見から生命ではないことをうかがい知ることができる。
つまり、ガラテアが機械系統ならば『リアルすぎる』のだ。
「テンですらも素性を知らないと言ってましたし、謎が多いですね……」
「まあ、謎が多いヒトが俺たちの目的とも限らないし、警戒するくらいで十分かな」
「言動は注視しておきますね。ところで、なぜこのエリアに?」
商店街を抜けた先には魔力を扱う工房が並んでいる。
「前々から魔力を利用した製品開発をしてただろ? その魔族側の職人がいるから訪ねておきたかったんだよ」
「ああなるほど!! 私も一度お話してみたかったんですよね。魔力について勉強したくて」
まあ、魔法を扱える大半の人がリソースである魔力には無関心だ。
まあ、ダンジョンでもない以上、地脈その他の魔力リソースに接続できないから仕方のないところはある。
その点、魔族はダンジョンでの研究調査や地脈の観測においては人間をはるかに超えたデータを持っている。
ダンジョンなんてやつらのホームグラウンドだからね。
「ちょうど製品開発も山場を越えたらしいから製品のシステム部分でも確認しようかなって思ってる。
進んできたメインの通りから一歩入ったところにあるアンティーク調の店へと入っていく。
金属製のベルの小気味良い音とともに棘のある甲高い声が飛んできた。
「いらっしゃい。あれ、君たち魔族じゃないね? 波長が弱弱しいから、噂の人間かな?」
ごみごみと積まれた木工細工の奥、カウンターの後ろで座っていたのは城下町に入るときに見たあの少年だった。
☆
~???視点~
「ファンダイク兄妹の魔王領留学が開始いたしました」
無機質な石室に、これまた無機質な声が響く。
そこに感情も意志も洒落っ気もない。
ただ、スペースとしてのみ存在するエリアがあった。
窓も家具もなくただ一つの存在だけあった。
『──』
「承知いたしました。接近はせず監視のみにとどめます。ファンダイク領に向かった
『──』
その存在は壁から返ってくるモノとコミュニケーションを行っていた。
何もない部屋に反響するそれから適切な単語を読み取り文章を構築し、意に沿った回答を構築して伝達する。
動作としてはソレただ一つだった。
ただ一つしかないのだ。身じろぎはおろか瞬きさえもない。
しかし、生命体ではあった。
「なるほど。では侵攻直前に連絡をくださると幸いです。必ずや兄妹を我が領域に招待して差し上げましょう」
『──』
「ええ、ええ。もちろん私は『????』様の手足でございます。この身が朽ちることがない限り、四肢の紐がちぎれることはありません」
では、とその存在が壁に一礼すると空間を震わせていたソレが雲散霧消した。
「私は人様の魔族でございます。創造主の赴くままに動く道具。私自身、そのことはより深く理解していかなければならないのかもしれません」
口角がキュッと上がる。
「魔王領壊滅は秒読みでしょう。あの方は私にその力を与えてくださいましたから」
喉から漏れるような笑い声を残してその存在は石室から消失した。
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