第65話 人外の城
2度目の魔王城はモノで溢れていた。
正確には回転ずしのように様々な書類や物品が空中を行き交っていた。
正面玄関からすぐ、左右の廊下と螺旋階段につながる大広間にたどり着く。
「我々は個体数が少ないのでこうして人員の削減を行っています。魔王城は地脈上にありますのでリソースには困りませんので」
「ンンまァ、魔物の中から
どこかの物置かな?
「頭上と正面にはお気を付けください。何が飛んでくるかわかりませんので」
そういうガラテアの頭上数センチを金属塊が通り過ぎていった。
彼女は慣れた足取りで螺旋階段を上ってゆく。
「執務室はこちらです。くれぐれも失礼のないように」
「ん? あ、うん」
失礼、ねえ。
一応まじめな雰囲気にしておくか。
いつもの空気感だったら速攻で変えよう。あのクソガキなら絶対何か言ってくるから。
「こちらです。ノックはご自身でどうぞ」
そういうとガラテアは身体を横にずらしドアノブを示す。
立派なドアだった。シンプルながらも精緻に彫られた文様が問答無用で平衡感覚を奪ってくる。製作者の性格が疑われるも芸術性のあるドアだ。
振り返ると製作者であろうヤツがにやにやしていた。
一回ぶん殴っても怒られないと思うんだけど。
ねじれていて微妙に持ちにくいドアノブを回し、中に入る。
正面のステンドグラスから差し込む日光が両眼を貫く。
「よく来たな。この部屋に来るのは初めてかのう?」
そこは広間だった。
魔力に満ちた玉座の背後にあるステンドグラス以外、窓という窓がなく壁一面にテンに似た有翼の魔物が飛び交う壁画が描かれている。
天を突きさすように伸びた三角形の天井からは長い無骨な鎖でシンプルなシャンデリアがぶら下がっていた。
自分の身長以上ある玉座に腰かけ、テンは足をぶらぶらさせながらにやにやしていた。
「やっぱ、魔王だったんだな」
「『やっぱ』とはなんじゃ『やっぱ』とは!! 我は正真正銘魔王じゃろうが!!」
「はいはい」
そういうところなんだけどな……。
ぷんすか頬を膨らませている魔王をよそに赤いカーペットの上を進んでゆく。
魔王から数メートルまで近づくと、二人並ぶ。
「ファンダイク領、ヴィル・ファンダイクならびにマルタ・ファンダイク。申請の通り魔王領で学ばせていただきます。よろしくお願いいたします」
腰を折り頭を下げる。
立場的には学ばせてもらう身だ。こういう儀式はしっかりとこなしておいたほうがいい。
「むふふー。お主に頭を下げられるのもいいのお。ほれ、そのまま足でもなめてもよいぞ? ん?」
「お前に調子乗らせるのがよくないことだけ収穫だな? 準備できてるか?」
「吾輩はなめられる準備はできておりますぞ!!」
「お前じゃねえよ!!!」
テンに向ける予定だった風魔法をアシのどてっぱらに思い切りよくぶち込むと先ほど入ってきた扉まで綺麗に吹き飛んでいった。
「ンンンンン、ナイスダメージ!!」
「テンション高くない?」
「あの変態、ヴィル様が相当のお気に入りのようですから舞い上がってるんでしょう。では、私はこれで」
そういうと先ほどと寸分たがわぬ所作で礼をし部屋の外へ去っていった。
「あやつも案内を買って出るのは珍しいのう」
「そうなのか。まだあの
「我々もわからんというのが本音じゃな。昔から存在自体は知っておったし魔力に付随する技術に関しては魔族の中でも頭一つ抜けたやつということも知っておった。じゃがのう、いくら関係を持とうが普段の生活も趣味嗜好も全くわからんのじゃ」
大臣には実力を買って、ってことか。
「じゃから、あやつがおぬしらの案内をするとは思えんかったんがのう。おい、アシ。変な薬でも飲ませたか?」
「ンンン!? なぜ吾輩を疑うのです!? 彼女にも共生に思うところがあったんでしょう。それだけだと思いますがな」
賛同か、拒否か……無表情の彼女からはどちらの推測も難しい。
今後、少しづつ見極めていくしかないか。
俺たちの目的は王国との内通者を発見、もしくは妨害することだ。ほんの少しでも疑わしい奴は警戒して損はない。
「それでおぬしらはどうする? このまま留学先に向かうか?」
「いや、正式には明日からだろ? 今日はマルタと城下を見て回ることにするよ」
留学という名前ではあるが別に学校に編入するわけではない。俺は魔力工房で、マルタはこの魔王城内で働きながら学んでいく。
それに、とテンの顔を正面に見据える。
「自由時間があったほうがお互い都合がいいだろ?」
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