第59話 蛮族

 ~マルタ視点~


 兄様が不在の時、館での雑務は全て私がお引き受けしています。

 その日は特に急ぎの用はなかったので執務室でのんびりと報告書や手紙の整理をしていました。


 それは突然やってきたのです。


「マルタ様!! 敵襲ですッ!!」

「敵の位置と規模は!?」


 半ば反射的に反応した私に驚いたのか。言葉に詰まりながらレイアは続けました。


「場所は正門から数百メートル! 規模は、すみません、最後方が視認できません!」

「敵は魔物、じゃないよね?」

「マルス・ア・ラーシ公爵が最前列にいるとの情報があります」

「わかった。衛兵は各員防衛配置に、正門には私が行くわ」


 レイアだったら私より先にセウロスに報告しているはずです。

 相手が貴族というのなら対話の余地はありますね。


 いざとなったら撤退するくらいはできるでしょうし。


「レイア、あなたもついてくる?」

「もちろんお供させていただきます。おひとりでは危ないですから」

「そんなに私が信用できない?」

「そういうわけでは……!!」


 直立不動だったレイアの身体にしなやかさが戻りましたね。


「ふふっ、少しは緊張が解けたかしら?」


 報告に来た時から、入り口で棒のように立っていたので、丸わかりでした。


「そんなに緊張していては、体がもちないわよ? 今回のは長丁場になりそうな気もするし」

「すみません……私としたことが……。ここからはお任せください」

「頼りにしてるわ」


 彼女の背中を押すように、正門へと向かいました。


 ☆


「大所帯で遠路はるばるご苦労様です。今日はどういったご用件でしょうか?」


 その男は何もかも巨大だった。

 オークを丸ごと筋肉に改造したかのような体躯に、石像のようなほりの深い顔が乗っている、いかにも武人といった身体を鎧で覆い隠していました。

 背中には大柄な体躯相応の大剣が存在感を醸し出しています。


「貴様、あれかぁ? 勇者嫌いで兄の元に逃げ帰った腑抜けだなぁ?」

「あら、あなたには礼儀は不要だったようですね? 今すぐ立ち去りなさい」


 私の言葉にも、公爵は不敵な笑みを浮かべたまま。


 余裕そうな雰囲気を醸し出してますけど、隊列ぐちゃぐちゃじゃないですか。


 兵士の数は多いですけど、歩兵と魔法使いがバラバラに立ってるし装備だってそろっていない。

 明らかに慌てて進軍してきましたね。


「誰かの依頼で来たのではないですか? 国王とか」

「依頼だぁ? そんなもんあったかもしれねえなあ」


 ガシャガシャとけたたましい金属音を打ち鳴らしながら距離を詰めてくる。


「そんなちっぽけな依頼より!! 俺はァ!! ヴィル・ファンダイクと決闘がしてェ!!」


 腹から唸るような絶叫が屋敷を震わせました。


 グシャっという音とともに金属の門が公爵の拳によってひしゃげていきます。

 もう建造物破壊で訴えてもいいですよね?


 っていうか決闘ですか? とても公爵位を持つ貴族の発言とは思えないんですけど。


「今、兄さ、ヴィル・ファンダイクは外出中です。どうぞお引き取りください」

「んだと? いねえのかよ!! いつ帰ってくる!? それまで待ってやらぁ!」


 なんでムキになってるんでしょうかね。


「1週間は帰ってきませんよ。お引き取りください。待てないほど子供ではないでしょう?」

「あいつ俺の闘技場にも来ねえ!! 嫌がらせかァ!? なあ、おい!!」


 大剣を抜き去ると力に任せて地面に突き刺しました。


「今すぐ連れ戻せ!! ほんとは国王からの親書もあんだよ!!」

「そうですか。ですが、お待ちください。ヴィルも公務で出払っていますので」

「はぁ!? 国王の親書だぞ!? なめてんのかおい!!」


 じゃあ親書見せてくださいよ。今のところただ単に国王の権力を振りかざしているだけなんですけど。


「あまり脅迫とか、恐喝とかなさいますと国家間の問題に発展しますよ? もう同じ国の同じ国王の臣下ではないのですから」

「んなもん、てめえらが勝手に言ってるだけだろうが!!」

「あなたの国の王は正式にこちらを国と認めて断交してきたんですけどね」


 公爵の顔が熱されたかのようにどんどん赤くなっていきます。


「知らねえよ!! 帰ってくるまでここで待つからな!!」

「ええ、一生待機していてください」

「ハッ、1週間後には帰ってくんだろ?」

「さあ? もしかすると一生帰ってこないかもですよ?」

「ああ、なるほどな。おいてめえら!!」


 公爵は振り向くと自分の兵団を前に腕を広げました。


「この館を!街を包囲しろ!! 手紙の一つも逃がすなよ!!」

「では、このことはあなたの王に伝えておきますね。では」

「やってみろってんだ!!」


 正門を衛兵に任せ、執務室へと戻りました。


「もうすぐイレリアが来る時間だよね?」

「あと10分後にはいらっしゃるかと」


 ちょうどよかったです。


 兄様がいないときイレリアが2日に1回の頻度で公務の手伝いに来ているのです。


「イレリアにこれ、渡してくれる? 兄様宛の手紙よ」

「承知いたしました」


 これで手は打ちました。あとは耐久戦ですね。


─────────────────────────────────────

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