第60話 帰宅したら門番が立っていた

 ~ヴィル視点~


 すでに館どころか街全体が公爵の兵団に包囲されていた。

 空間の亀裂から顔だけ出し、周辺の足音を確認して降り立つ。


 場所はいつもの『ヘカテ』のある路地裏だ。


「ンンンンン、不穏ですなァ。魔物でも召喚いたします?」

「領……国民を巻き込むだろ。お前はそのまま国境まで戻ってくれ。送ってくれて助かった」

「ンン、そうですなァ。まだ我々の関係は伏せたほうがよろしいですからなァ。ここでコーヒーでも飲んでいくとしますかな」

「頼むから好奇心で口出しするなよ」

「ンンンンン、お任せくだされ!! 次の悪だくみをするのでそこまで暇にはならんのですよ!!」


 そう言うとアシは意気揚々と『ヘカテ』へと入っていった。


 悪だくみっつってたな……テンにあとで報告しておくか。

 お前の部下、信用できないから教育しとけって。


 風魔法を身にまとい、ファンダイク邸めがけて屋根の上をすべるように疾走する。


 見下ろした印象では、物資の供給は止まっていないようだ。

 露店にも少くな目ではあるが商品が並んでいるし、馬車の通りもある。


 ただ、国民の顔に明るさはなく街全体が活気を失っているようだった。


「さっさと退場してもらいますか」


 ファンダイク邸に近づくにつれ兵士の数は増え、いくつもの簡易的なテントが張られていた。


「まだかァ!! 逃げたんじゃないだろうなァ!! さっさと出てこねえとてめえも闘技場行きにしてやるからな!!」


 うるさいダルマがいた。


「親書渡さねえと怒られるのは俺なんだよ! 急ぎの手紙書け!!」


 ああ、いたなこんな奴。

 ブレヴァンだったらいわゆるエンドコンテンツの闘技場を運営してる貴族だったっけ。闘技場のチュートリアルにしか出てこないから忘れかけてたわ。


 風魔法を解除すると、俺は公爵と正門を挟んで正対する位置に着地した。


「人の家の前で騒がないでくれるかな。単純に邪魔なんだけど」


 奴は俺の顔に目の焦点が合うと、途端に口角を上げた。


「どこから出てきやがった! 1日も待たせやがってぇ!!」

「別にお前が勝手に来ただけで予約のクソもないだろうが」

「お前だとゥ? クソガキが。ほら、親書だ」


 フリスビーのように投げられた便箋を掴むと、館から慌てて降りてきたレイアに手渡す。


「丁重に扱えよクソジジイ。上司の親書だろうが」

「手紙なんてどうでもいいんだよ。めんどくせえし。拳で語り合えよ。なァ?」

「そんな蛮族みたいな人間がよく貴族になれたな」


 しかも俺より爵位が高いのが気に食わない。


「武力で解決できんだよ。何もかもな!! あークソ長々しゃべっちまった。ファンダイク、やるぞ」

「何をだよ。ちゃんと文章で話せ」

「バカ、決まってんだろ。決闘だ! 決闘!! 勇者を殺したお前とオレ、どっちが強えぇかってなァ!!」


 公爵の全身から放たれた衝撃波のような魔力に身体が後ろに引きずられるように錯覚した。

 魔力量で言えばマルタ以上、アシ以下といったところか。


 エンドコンテンツのチュートリアルにしては強くないか?

 少なくとも本編よりは強化されている。


 俺が生き残ったから物語が狂ったのか。


「まあいい。攻略のしがいがあるだけましだ」

「お? やる気になったな」


 公爵の口角が好戦的な縁取りを描いていく。


「お前にさっさと帰ってほしいだけだ」

「十分殺りあったら帰ってやるよ」


 お互い闘気をむき出しにしてしまったがここはただの屋敷の正門だ。

 決闘なんてできる広さはない。


 なら、造るか。簡易闘技場。

 幸い、ダンジョン化したおかげで地脈は使える。


「舞台は造ってやる。あとは、言わなくてもわかるよな?」

「御託はいいから早く作れや。じゃないと屋敷ごとぶっ壊しちまう」


 際立って中二病味が強いなコイツ。

 理性が無いとイキってる学生にしか見えないんだよ。


「ずり落ちんなよ」


 地面に手をつき地脈と自身の魔力を同調させていく。

 このダンジョンは俺のモノ。ダンジョンを動かす地脈の魔力も俺のモノだ。


 どこぞのオレンジみたいな理論にうっすら苦笑いしながら魔力を実体に変換していく。


「『グラビ・ルド』」


 正門付近が地面ごとせり上がり、魔力で造られた土くれが、小惑星誕生の過程のように俺らが乗る土地を核にして凝縮していく。


 お椀状に生成されたスタジアムの広さは、大体サッカーコートくらいか。

 タイマンなら十分な広さではある。


「てめえ、さすがにやるなぁ? もういいか? 筋肉が疼いてしょうがねえ」

「来い。筋肉ダルマ。ンでそのまま逃げ帰れよ」


 跳んできたのは公爵ミサイルだった。


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