第61話 オン・ステージ

 屋敷にがれきがぶつからないか。

 それだけが心配だった。


 ミサイルのように突撃してきた公爵の剣を闘牛士よろしく身を翻し受け流す。


「兄様!? いつのまに!?」


 執務室の窓からにゅっとマルタの驚いた顔が出てきた。


「ただいま! 対応助かる!」

「いや、助かるではなくて! なぜ帰ってきたんです!?」

「さっさと解決したいからね!」


 突進すると見せかけて放たれた足元を掬うような公爵の剣戟に合わせるように土魔法の段差を顕現させる。


「説教はあとで聞くから!」

「兄弟で仲良しだなァ! だが今は俺を見ろォ! 愛しの死合相手だろうが!」

「何が愛しだっての!」


 土壁に埋まった剣に気を取られていた公爵の頭に風魔法の弾丸を打ち込んでいく。


 が、着弾した感覚がない。


「ほぉん、魔法主体か……つまらん」


 公爵は少しだけ首を回すと何事もなかったかのように立ち上がった。


「そんな軟弱なモノに頼ったところで何になるんだァ? 傷一つつけれん玩具で遊んでんじゃねえ。漢なら筋肉と! 剣で! 殺りあうんだよォ!」


 後ろステップで距離を取り、公爵を中心にドーム型に火球の弾幕を展開する。

 防御の暇もなく断続的に火球は着弾していく。


「だから効かねえっつってんだろうがァ!!」


 剣を一振りし、土煙をかき消すと、公爵は再び突進してきた。


「ブラフじゃないのかよ!」

「体質だァ!! 常時魔力が溢れてやがるんだよォ!!」


 叫ぶことじゃないだろ。

 つまり? 常時全身から高出力で魔力が放出されるから魔法が抵抗を受けて霧散するってことか。


「拳があるだろうが!! 筋肉でッ!! 語り合おう!!」

「自分の土俵に持って行ったくせに何言ってんだよ」


 両手両足に風魔法をまとわせ、空中へ後退する。

 公爵の攻撃は一発で首が飛ぶほどの威力はある。ただ、その速度と単純な直線的な攻撃が多い分、避けやすい。


 バカの一つ覚えのように突進してくる公爵の大剣を避けながら何発かカウンターで蹴りを入れたが岩を蹴っているようにしか思えない硬さだった。


「兄様!! 今助けに!!」

「無駄だ!! コイツ、魔法が効かない!」


 マルタが来たところで聖魔法が効果なくて肉壁が一つ増えるだけだ。


「ブンブンブンブン逃げ回ってよォ!! 漢らしくねえなぁ!!」

「そんな汗臭いモノいらないな!!」


 公爵の大剣の先が足元をかすめる。


 実際、このまま逃げ続けても膠着状態のまま何も決着がつかない。

 相手は物理的な装甲に加えて魔力的な防壁も厚い。


 魔力を放出し続けているならいつかは息切れする。

 だけど、魔力量が計り知れない以上待つのは得策じゃない。


 でも、どうにかして魔法の土俵に引きずり下ろしたい。


 使えるのは自分の肉体と魔力。そして──


「ワンチャンあるか?」

「さっさと降りてこい。語《殴》り合おうぜ」


 公爵から数メートルの位置にすとんと着地し、地面に手のひらを押し付けた。


「あァ? だから魔法は効かねえっつってんだろ」

「言ってろ。筋肉バカ」


 この舞台、そのすべてが地脈の魔力だ。

 井戸の水を吸い上げるイメージで地脈の魔力を大気中に放出していく。


 一度放出してしまえばあとは勝手に出てくる。


 何だっけ、毛細管現象だっけ? まあ、いいか。


 間欠泉のように噴き出した魔力は流れ出ることなくステージにたまり続けていった。

 濃度を増していく魔力が、魔法に変換されるのを今か今かと催促しているかのように火花を散らしている。


「んだコレ……!! 気色悪いなァ」

「ステージがやっと完成したんだよ。さあ、再開しようか」


 風魔法をまとい公爵に肉薄する。


「速いッ……!」


 突き出した拳は大剣で受け止められたものの、公爵の顔から余裕は消え去っていた。


「うざいんだよこの魔力!! 何しやがった!?」

「ただ、魔力で満たしただけだ。お前、『飽和』って知ってるか?」


 物事には何にも限度があるように、空気中に含まれる物体にも量の限度がある。

 例えば水は空気中に含まれる水蒸気の上限である飽和水蒸気量を超える水蒸気が発生すると、雨粒となり地面に落ちてくる。


 それと同じ現象が魔力でも発生しているのだ。


 飽和する量ぎりぎりまで放出した地脈の魔力によって、公爵の全身から放たれる魔力量が制限されているのだ。

 ちなみに魔力を魔法に変換する分には、問題ない。ただ純粋な魔力だけが制限される空間。


 魔法は魔力を身体で実体に変換してるから魔力を放出しているわけではないのだ。


「さあ、お互いノーガードで行こうか。あんたの望み通りになったろ?」


─────────────────────────────────────

【あとがき】


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