第35話 勇者とはいえ国民、人間である。

 ~勇者視点~


 翌朝、屋外の騒音で目を覚ました。


「なんだよ……!!」


 寝起きまで最悪なのかよ……!!

 二日酔いでガンガンする頭に、外からの金切り声が突き刺さる。


「マオト様!! 緊急クエストです!!」

「んだよ。うるせえ!! んで!? 何が起きたぁ!?」

「村の近くに!! 魔物が!!」

「……はぁ?」


 報告に来たセネカを追い出し、急いで準備して農地へと向かった。


「あ! 来てくれたんですねマオト様! 助けてくださいよぅ~マルタって盾にもならないんですね~」


 泥だらけのネトが駆け寄ってくる。

 先に被害状況を見てきてくれたらしい。


「ペール・サーペントですっ!! おかしいですよ!?」

「レベルは!」

「お、おおよそ40レベルかと!」

「40!?」


 セネカの手から矢が落ちた。


 パーティーの平均レベルも、俺のレベルすらも40には至ってはいない。

 完全に格上の個体だ。


 そもそもペール・サーペントはダンジョンに現れる魔物のはず。

 こんな田舎の平地に現れていいシロモノではない!


 ったく何でこう何かしようとする度に邪魔が入るんだ!!


「ゆ、ゆゆ勇者様……!! どうか村をお助けください……!! この村をなげうってでも村人を助けていただきたいのです……!!」


 ブルブル震えながら村長が地面に頭をこすりつけた。


「てめえらが死のうが関係ねえんだよ!!!」

「お待ちくださいマオト様!! 勇者として見捨てるのは……!!」


 割って入ったセネカに押しとどめられる。

 実際、俺たちの目的は魔王領に侵入すること。途中で立ち寄っただけの村がどうなろうと目的に支障は出ない。


「国王様から国民を守るよう仰せつかったはずです!!」


 勇者任命式の時に国王から言われた文言が頭に浮かび上がる。


『勇者は魔王を倒す者じゃ。だが、ただ単に魔王を討伐すればいいものではない。国民を守るために魔王を、魔物という存在を根絶するのじゃ。国民が助けを求めたら手を差し伸べるのが勇者としての義務である!』


「ああクソッ!! わかったよ!! その代わり金も女もたんまりいただいていくからな!!」


 そう怒鳴りつけると俺は踵を返してペール・スネークがいる方角へと向かった。


「──!!!!」


 現場にたどり着くと、硬い者同士がこすれ合うような耳障りの悪い音を発しながら大蛇が農地をのたうち回っていた。


 その青白いうろこは泥でもはや見えなくなってしまっている。


 何でボス級の魔物がただの畑に出てくんだよ!! 魔王か!? 魔王がこんなクソめんどいクエスト作りやがったのかァ!?


「ネト! セネカ! 殺るぞ!」


 ネトと俺が前衛、セネカが後衛。

 俺たちの陣形は崩さない。


 ムカつきを晴らすように地面を強く蹴る。

 頭の真下まで肉薄すると、勢いのまま突き上げる。


「刺さんねえのかよ……!!」


 両手で突き上げた剣は鱗に弾かれ、かすり傷すらつけられない。


「──!!」


 鎌首を持ち上げて俺を突き刺そうと迫るサーペントの牙を剣の腹で受け止める。

 全身にかかる圧力に、腕の筋肉が、全身の骨が耐えられず悲鳴を上げる。


「マオト様!!」


 ネトのナイフもセネカの矢もかすり傷すらつけられない。


「マルタァ!! お前も戦え!!」

「『ヒートアップ』」


 サーペントの輪郭をなぞるように空間が揺らめく。

 近くにいるだけでもとんでもない熱量を放っているが、この大蛇の動きを止めるには力不足みたいだ。


「──!!!」

「クソがッ……!!」


 もはや取り繕う余裕すらない。

 飛び退こうにも背後にはサーペントの尻尾がまるで別の生き物のようにうごめいている。


 限界だった。


「なんでッ……! 俺は、勇者だぞ……!!」


 頭の内側から熱くなっていく。


「なんでッつ……何で思い通りにいかねえんだよォ!!」


 この世で唯一魔王を倒せる男、下民は当然のように従うべき男のはずなのに!!

 いつも邪魔が入る!! なぜ従わない!? お前たちは命を捨てる馬鹿なのかよ!?


 俺は何も悪くないだろ!?


 心の叫びもむなしく、俺の腕は徐々に胸へと近づいていく。


 死ぬ。

 本能がそう叫んでいた。


「──総員撃て!!」


 野太い声が響く。


「……は?」


 雨のように降り注ぐ液体を全身に浴びながら思わずそう漏らす。


 サーペントの頭にいくつもの氷柱が突き刺さっているのだ。

 ということは……この生臭いのは、体液か。


 そう思った瞬間、胃の中のものがすべて吐き出されていた。


「勇者殿!! 何をしているのですか!! 早くどきなさい!!」


 考えるよりも先に身体が動いていた。

 牙を押し返し、尻尾の隙間から脱出する。


「下がっていてください。我々が対処します」

「お前ら……ファンダイクの……!!」


 魔法を放ったのは、ファンダイク領の私兵たち。

 雑兵の魔法が勇者でも傷をつけられなかった大蛇を押し返しているのだ。


 周囲に目を向けるとネトもセネカも私兵たちに保護されている。


「助けなんていらねえ……!! てめえらこそ下がってろ……!!」


 リーダーらしきおっさんが厳しい顔を向ける。


「傷一つつけられないあなたが何を言ってるんですか。領民を守る義務が我々にはあります。おとなしくしていてください」

「俺は勇者だぞ!! てめえら雑魚が俺より強いはずないだろうが!!」

「現実を見てください勇者殿。おい、勇者パーティーを村まで連れていけ」


 2人の兵士に両脇を抱えられ、引きずられていく。

 暴れようが爪を立てようがお構いなしだった。


 俺はこんな名もなき兵士にも力で負ける。

 見たくもない現実がここにはあった。


─────────────────────────────────────

【あとがき】


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