第36話 もう違う

 ~勇者視点~


 その後、立場がひっくり返った。

 庇護する者から、厄介者へ。

 私兵たちに連れられて戻ってきた俺たちを見る目は全て白かった。


 ペール・サーペントは討伐されたらしい。

 後方の騒ぎ様でそれだけは理解できる。


 宿屋まで戻された俺たちは気まずい空気の中、粛々と酒場で飲んでいた。


 誰も死んではいない。それどころかケガもなかった。


 だが、戦果はない。

 名誉に至ってはこの村では地に落ちたに等しかった。


 負けたという事実よりも助けられたという屈辱感が俺の心を占めていた。


 喉を流れるエールも生ぬるい。


「……」


 誰一人口を開かず黙々と夕食にありついている。


 今までこんなことなかった。

 いや、あり得なかった。


 俺は勇者なのだ。国王に任命された、唯一魔王を倒すことのできる男なのだ。


 一人では苦戦することはあってもパーティーメンバーがいれば失敗することはなかった。

 変わったのだ。悪い方向に。


「仲間ねえ……」

「ふ? はひはひいはいは?」

「口の中を無くしてからしゃべれ馬鹿」


 変わったのはこいつらだ。


 確かに経験値ダンジョンには行けてないから予想より成長は遅い。

 だが、ペール・サーペントごときに醜態さらすほど成長していないわけではなかったはず。


 連携も問題ない。俺に合わせるように前衛も後衛も動けていた。


 いや、もう考えるのはやめだ。ダルい。

 わかりきってるじゃねえか。誰が原因で荷物になってるかなんてな。


 テーブルの端で細々と飯を食っているそいつに目を向ける。


 こいつにはプライドをへし折った代償を払わせる必要がある。


「マルタ、お前を許さない」


 ☆


 ~マルタ視点~


 ペール・サーペント戦後、私たちの雰囲気は最悪でした。


 マオトはボソボソとしかめっ面でつぶやき、セネカは我関せずといった風に優雅に食事をし、ネトは皿にがっついていました。


 兄様の計画は順調に成功したようですね。

 マオトにペール・サーペントに挑ませ、ピンチのところを兵団が救助、マオトのプライドを折る。

 ここまでは筋書き通りです。


 ここからは私次第。2階に兄様たちが待機しているとは聞きましたが、ピンチの時だけ呼びましょうか。


 不思議と緊張はしていません。


「マルタ、お前に話がある」


 ついに来ましたか。


「何でしょうか」

「いま一度聞くが、手を抜いてねえよな?」

「もちろん。全力で魔法を発動しています」


 このことに嘘偽りはない。

 先ほどの『ヒートアップ』だって、最大出力です。

 効きづらい魔法を選んで使用してはいますけどね。


 ペール・サーペントは火山性のダンジョンで出現するらしいと兄様の手紙には書いてありましたから。


「聖魔法は?」

「ええ。全力です」


 使ってませんけどね。


「あとで俺の部屋に来い」

「ですから聖魔法使いでいる以上無理だって言ってるじゃないですか」


 何ですか? 追放する前に1発ヤってこうって魂胆ですか?

 どこまで下半身に支配されているんでしょうか。


「てめえ聖魔法ザコいんだからいいだろうが!! 聖魔法、聖魔法ってうるせえんだよ!! 戦闘で役に立たないんだったら今役立てよ!!」

「ですから無理だと言っているはずです」


 マオトの口角が上がる。


「いいのか? そんなこと言って? お前、誰を前にしてんのかわかってるよな?」

「いい加減その勇者の肩書だけで脅そうとする行為やめませんか?」

「てんめえ……!! ああもういい分かった」


 マオトはスッと立ち上がると立てかけてあった剣を私に向けました。


 防御の準備だけはしておきましょうか。


「マルタ。お前はここで終わりだ。てめえにも、てめえを寄越したファンダイクてめえの家族にも罪を償ってもらう」

「罪、ですか」

「ああそうだぜ? 国家反逆罪っていう罪だよォ!!」


 机の上の食器をなぎ倒しながらマオトの刃が迫ってくる。


 周りに客も店員もいなくてよかったです。

 こんな痴話喧嘩に巻き込むわけにはいきませんもの。


「『エア・ロック』」


 私の首を狙って横なぎにされた刃は、目と鼻の先で止まりました。


「クソッ!! おとなしく死んどけ!!」

「この光景ならあなたのほうが罪に問われそうですけどね」


 再び剣が振り上げられたがその斬撃はあえなく『エア・ロック』で止まってしまいます。


「マルタ!! あなた、勇者様に反抗して!! 子供なの!?」

「いい加減にしないさい。マルタ。そういうとこ、嫌いよ」


 ネトにセネカも参戦ですか。

 お店、壊れないか心配ですね。


「3対1だぜ。おとなしくヤられるか殺されるか選ぶんだな」

「どちらも選びません。あなたたちには到底不可能ですから」


 マオトの剣もネトのナイフもセネカの弓も私には届きません。

 レベルには違いはないですけど、装備が違いますから。


 兄様に買ってもらった魔導書をなでる。


 それに、もう時間切れですよ。


 私の背後から水魔法が後光のように飛び出してきました。


 水魔法は一直線にマオトたちの四肢へ着弾すると、瞬時に凍り付きました。


「俺の領で何してんだ」

「すみません。兄様。少々言葉が過ぎました」

「まあ、こうなるだろうなとは思ってたよ」


 勇者パーティーは3人とも手足が凍り付いていて動けません。


「ヴィル!! てめえが出てくんな!! 関係ねえだろうが!!」

「あるだろ。マルタは俺の妹だ」

「妹を助けに来たってかァ!? とんだシスコン野郎だなァ!!」

「家族がピンチなら助ける。当たり前だろう?」

「おいマルタ!! てめえは一旦追放だ!! だがな!! 絶対後で殺しに行くから首と股洗って待っとけよカス!!」


 マオトの絶叫が半壊した酒場にむなしく響きました。


─────────────────────────────────────

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