第13話 ボス戦
~ヴィル視点~
勇者が酒場を荒らした翌日、俺はイレリアとともに経験値ダンジョンへ向かった。
ダンジョン入り口横の詰め所で兵士長と合流し、ダンジョンを下っていく。
古代ギリシャの遺跡のような内部ではまだ何も知らない兵士たちがそこらじゅうでメカニックラビットを狩っていた。
「それで今日はどういった用件で?」
手紙の件を説明すると、兵士長は腕を組み、唸る。
「現時点でダンジョンにこれといった変化は見られませんな。1日に数百体は討伐してますが、個体数が減った印象はありませんな」
「念のため調査を終えるまで兵士たちを撤退させておいてくれ」
「ヴィル様ご自身が向かわれるのですか!?」
「そのつもりだ。まだ俺のほうがレベルが高い。ダンジョンは下っていけばいくほどレベルが高くなる。強い人間が下に向かうことは合理的だろう?」
一つのダンジョンでも階層によってレベルが異なるのはブレヴァンの特色の一つでもある。魔物を討伐し逐一レベルを上げながら進んでいき、最奥でダンジョンで一番強いボスと戦う。ダンジョン攻略にレベルアップが必須であるからこその手間とクリアした時の達成感は他の同じようなRPGと一線を画していた。
ただ、現状のような緊急事態だとレベルアップの暇はないから準備時間なしの突破になり、最深部の適正レベルでないと攻略は難しい。
「あたしも同行するから安心して頂戴。一人じゃないわ」
「イレリアさん、失礼ですがレベルはおいくつですか」
「22よ。適正は20。何も問題ないでしょう?」
イレリアがステータスをこちらに見せてくる。
ステータスは本来、本人しか閲覧できない。しかし、本人が希望する場合に限り、他人も閲覧することができるようになる。
ゲーム内でパーティメンバーのステータスが閲覧できる仕様は本来このような
形式なんだろうな。
俺のステータス画面にも名前の下に23レベルと表記されていた。前回確認した時点では20レベルだったはずだ。魔物の討伐なんてほとんどしていないのにレベルが上がっている。
何かほかにレベルアップの要因があることは明らかだ。といってもこれといって特別何かしたとかはないはずなんだけど?
「ヴィル様? 何かご懸念でも?」
何も発さない俺を見かねたのか兵士長が心配そうな顔で振り返る。
「いや。大丈夫だ。俺とイレリアの二人で攻略する。兵士たちは撤退したのち、館まで帰らせておいてくれ」
「承知いたしました。くれぐれもお気を付けください」
そういうとお辞儀をして兵士長は横道に入っていく。
これで変に正義感を募らせた人間が余計なことをする確率はほぼなくなった。
緊急事態に不確定事項は増やしたくない。
「俺たちも進もう」
うなずき合うと俺たちは下層へ続く階段を下っていった。
☆
最下層はギリシャ遺跡風の上層とは異なり、転生前の時代の研究所のようなのっぺりとした白一色の風景が続いていた。
コツコツと硬い床を鳴らしながら臆せずに進んでいく。
「なあ、あんたはこのダンジョンのボスがどのような魔物か知ってるかい?」
「ギア・ゴーレムだろ?」
ブレヴァンでなんども倒して経験値を稼がせてもらったから忘れるわけがない。
ギア・ゴーレムはその名前の通り機械仕掛けの巨大な人型だ。メカニックラビットと同じように他のダンジョンや野外にいるボスと比べて経験値が高いことと、機械仕掛けゆえの硬い装甲が特徴だ。
「ヤツは力はあるからねえ、攻撃がかすりでもしたらただの人間のボディじゃ軽く粉々になるね」
「だから魔法で攻撃するんだろ。大丈夫、それくらい理解している」
ゴーレムは膂力と防御力はあるがその分魔法に対する抵抗力と速度がない。そのため魔法で速攻することが定石となっている。
加えて、そもそもボスの魔物はダンジョンコアから魔力の供給を受けて守られている。
それを破るために聖魔法を使用できる人間が必須だ。
その聖魔法の一種、『アーク』を発動できるのが俺の妹、マルタである。
聖魔法はボスの魔物をダンジョンコアの魔力から切り離し、ダンジョンコアによる防御、魔力供給による蘇生を防ぎ、ボスの魔物を形成するコアに傷つけることを可能にする魔法だ。
つまり、逆に言うと蘇生はされるがボスの魔物の討伐自体はできるということ。
勇者パーティーは魔物の撲滅を目標にしている。そのため、ボスの蘇生自体を止める必要が出てきてしまい、マルタが招集されたというわけだ。
「蘇生にかかる時間ってわかるか?」
「ここは3時間前後かしら、ダンジョンコアが大きいから少し早めなのよね」
「3時間か……余裕がないな」
「でも、そこまで調べ上げているとはねえ。あたしゴーレムのことなんてほとんど口にしたことがないのに」
俺の体がこわばるのを必死で耐えた。
転生がバレてるのか?
イレリアは俺とぴったり速度を合わせて歩いているためその表情はうかがい知れない。
「ここだな」
俺たちの目の前には身長の倍以上はある金属の扉が固く閉じられていた。
ボス部屋である。
この扉の奥にある空間はボスがダンジョンコアを防衛している最後の砦だ。
「準備はいいか? 開けるぞ」
イレリアがうなづくのを確認すると、俺は扉を押し開いた。
一面灰色の一枚岩でおおわれており無機質な空間にこんもりとスクラップが積みあがっている。
しかし、肝心のゴーレムの姿がそこにはなかった。
「誰かもう来ていたのか?」
ダンジョンコアがある限り、防衛をするボスは討伐されても一定時間で蘇生する。つまりボス部屋にボスが不在であることがありえるのは他の人間が討伐したのちの復活待機時間しかない。
「でも、あんたのところの兵士はここまで来れないわよね? あたしはあなたたちにしかここを開放してないからボスがいないはありえないわ」
ボスの不在が異常事態ってことか。
「とりあえずコアだけでも確認するか」
最悪コアだけ無事ならダンジョンに問題はない。
最奥のコアに近づいた時だった。
周囲に山になっていたスクラップが突如意思を持ったかのように中空に集合し組み合わさっていく。
「ボス、いたな。それも特大の奴が」
機械仕掛けの竜が自身の発生を示すように咆哮する。
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