第9話 報告会

 ~ヴィル視点~


 ダンジョンへ兵士たちを派遣してから1か月がたった。

 今日までの間、適度に休日を取りながら兵士たちは鍛錬を行っていた。


「ヴィル様! この1か月でレベルが2も上がりましたぞ!! 老いぼれもまだまだ捨てたものではありませんな!!」


 ガハハハッ、と兵士長は豪快に笑う。

 1か月の成果報告のために、兵士長、俺、経験値ダンジョンの管理人のイレリアはファンダイク邸の応接室に集合していた。


 以前、3か月で1レベルしか上がらなかった兵士でも1か月で2レベル上昇できている。経験値ダンジョンでレベリングしている成果は着実に出てきている。このままいけば勇者と同格以上の兵団が誕生するだろう。


「領民からの依頼はどうだ。15件ほどあったはずだが」


 兵士たちには休日と訓練の合間に領民たちから寄せられた依頼をこなしてもらっている。住宅の修理の手伝いから新しい武器のテスター、トロールやロックウルフの群れの討伐まで、多岐にわたる内容の依頼をこなし、実戦経験を積むとともに領民らとの交流を促し兵団のイメージを向上させようという目論見だ。


 兵士長は誇らしげに依頼書を机に広げた。


「領民からの依頼15件、全て達成済み!! 我が軍ながら誇らしいですな!!」

「よくやってくれた。兵士から不満はなかったのか?」

「依頼を受け始めた頃は奉仕活動をサボるやつもいましたがね、最終的には全員自主的に依頼を受けるようになりましたよ。これも筋トレになるとか」


 筋トレってうちの兵団脳筋しかいないのか。


 ポージングし始めた兵士長を無視し、話を続ける。


「ダンジョンに異変は?」

「ないわ。どれだけ狩っても魔力で満ちている限り無限に発生するから基本的に問題は起きないわ。でも、一つ気になることならある」


 無言で続きを促す。


「おととい、うちのバーに勇者を名乗る少年が来たらしいの。そのとき店番してた子が対応してくれたんだけど、暴力沙汰になりかけたからあなたの名前を言っちゃったらしいわ。ごめんね」

「いや、いい。予想は出来ていた。むしろ迷惑をかけることになってしまい、申し訳ない」


 アラタが持つブレヴァンの記憶は、俺が勇者としてプレイしていた記憶だ。ということはつまり、この世界の勇者も俺と同じ道をたどり、同じ知識を得る可能性があるということ。

 だから、バーにたどり着く可能性はあった。


 バーに寄ったということは今も勇者一行がファンダイク領にいる可能性が高い。

 マルタを連れ戻すには絶好の機会だ。


 報告会が終わり二人が去ると、俺はレイアを呼び出した。


「勇者に近づいてもらいたい」

「勇者に、ですか? バーの報復ですか?」

「そんな物騒じゃない。ただ、勇者に接近しマルタに対する不満を探ってくれ」

「不満をですか。なぜまたそのようなことを?」

「マルタを呼び戻したい。まあ、兄としてあの勇者の側に妹を置いておくことはできないってことだ」


 呼び戻さなければマルタに殺されることにもなるからな。早い段階から手を打っておこう。

 勇者との戦いまではあと6年と8か月。その間にマルタを追放させる。

 俺が勇者パーティーから強引にマルタを連れ戻してしまうと、勇者だけではなく、勇者パーティーを選出した国王からの信用も失ってしまう。

 もともと悪役貴族の運命を背負っている人間のくせに敵を増やしてしまうのは得策ではない。だからこそ、勇者自身にマルタを追放させ、身寄りがなくなった彼女を引き取るという形で連れ戻す。


「お前の諜報能力を買っての頼みだ。引き受けてくれるか?」

「お任せください。マルタ様には見つかってもよろしいのですか?」

「お前が接近することは手紙で伝えるつもりだから安心しろ。むしろマルタは協力者だと思ってくれていい」


 送られてくる手紙を見る限りマルタ自身もあまり勇者を快く思っていないようだ。レイアにスムーズに任務をこなしてもらうためにもマルタからもたらされる情報は貴重だ。


「最後にこれだけ忠告しておく。身の危険を感じたら即座に離脱しろ。俺の存在がバレてもかまわない」

「え……よろしいのですか?」

「別に抵抗できるくらいの力は蓄えておくさ。それにだれも失いたくない」


 俺は生き延びるために行動している。だが、誰かの犠牲ありきで生き延びる展開は好みじゃない。


「ありがとうございます……では、いってきます」

「ああ。いってらっしゃい」


 レイアは少し震えた声でそう言うと、応接室から去っていった。


 椅子の背もたれに体重を預け、目を閉じる。

 この世界に転生してから働きづめだった。その結果、金の問題もレベルの問題も解決しつつある。

 ただ、不休で動き続けたツケが睡魔として襲ってきていた。


 睡魔に埋め尽くされた脳内に金具が擦れる音が響く。

 硬いヒールの音が徐々に近づき、ぴたりと止まる。


「あたしをこき使うなんていい度胸してるじゃない。これ、置いておくわね」


 ヒールの音は遠ざかっていった。


─────────────────────────────────────

【あとがき】


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