第32話 意志あるカカシ

 ~勇者視点~


 ファンダイク領中心街近郊、ドーデモイ・ダンジョン──。


 俺たちに与えられたクエストは、このダンジョンを殲滅してコアを破壊、最奥に鎮座している聖骸布を回収すること。


 普段のダンジョン攻略に、達成報酬がついただけの簡単なクエストだ。

 レベルもそこまで高くない。勇者であれば苦戦することはないはずだ。


 ダンジョンの入り口から流れる生ぬるい風が頬をなでる。


「マオト様、準備が整いました」

「そうか。行くぞ。俺とネトが前衛、セネカが後衛、マルタは……適当についてこい」

「……はい」


 先導する俺たちの数歩後をマルタが淡々とついてくる。文句も何も言わずにただ淡々とはぐれないように歩いている。


 ここまで適当に扱っても何か言い返したり、報復するようなそぶりもない。ようやく自分の立場を理解したようで、むかつくような、当然そうあるべきだと納得しているような、気色悪いイライラが俺の心を逆なでしていた。


 こいつはもはや何もできない。

 今のレベルでは俺たちがいないとダンジョンの最上階の魔物すら倒せないのだ。


 戦闘ができない人間など、この崇高な勇者パーティーにおいて不純物でしかない。


 聖魔法使いはやはり戦闘ができないボンクラしかいないのだ。そもそもこいつを勇者パーティーに入れたことが間違いだという認識に変化はない。


 だが、当の本人は戦闘できなくても俺たちに蔑まれても一向に歯向かおうとしない。


 それがむかつくんだよッ!!!


「マオト様、前方に敵影ですっ」


 前方のクリアリングをしていたネトからの報告が響く。


 彼女が言う通り、数十メートル進んだ先の小部屋に魔物の群れがたむろしていた。

 出現していたのはタイラントボアの群れ。


 大小様々なサイズのボアが一心不乱に鼻を地面にこすりつけていた。


「先手必勝だ。行くぞ」

「ちょっ、マオト様!?」


 うろたえるセネカを気にも留めず、タイラントボアの群れに突っ込んでいく。

 正直、この程度の雑魚なら後衛の攻撃なんていらねえ。


 俺一人で十分だ。


 着地した瞬間、剣を横に薙ぎ払い、一刀両断していく。

 その勢いのまま地面を蹴った瞬間だった。


「『ヒートアップ』」


 マルタから魔力が空間全体に広がっていく。

 タイラントボアの輪郭に沿うように空気が陽炎のように揺らめき、ボアの動きが鈍っていった。


 動きが止まったボアの頭を作業的に刈り取っていく。


「──!!」


 剣を振り下ろした瞬間、ふらふらと頭を揺らしながらボアが突進する姿が視界の端に映る。


 びちゃびちゃとよだれを垂らしながら突き進むそれが俺を狙っているのは明らかだ。


 クソッ、この体勢じゃ、避けれねえッ……!!


 身をよじるが間に合わない。

 訪れる衝撃に備えて腹に力を入れる。


 が、鈍い痛みは訪れなかった。


「マオト様!!」


 数センチのところでタイラントボアが全身に矢を受けて死に絶えていた。


「間に合いましたね」

「助かった!」


 セネカがホッと胸をなでおろし、次の矢を構える。


「まだ、油断なさらないで!」

「わかってる!」


 のろのろと突進してくるボアを着々と刈り取っていくが、通常、収拾がつかないほど走り回っているボアがこうものろまに動いていると、攻撃のリズムがつかみにくい。


 結果的に討伐するストレスが上がっていた。


 あああ!!! もう!! 遅すぎんだよ!!


 殲滅するころには達成感よりもリズムに乗れなかった不快感のほうが勝っていた。


「おい、てめえがかけたのか」


 うちのパーティーで魔法主体の人間は一人しかいない。

 またマルタだ。またこいつが余計なことをしでかした。


「『ヒートアップ』なら私の魔法ですが」

「勝手に魔法発動させてんじゃねえよ!! 俺の指示だけに従えよ! 耳あんだろうが!」

「そうですか。では、次から気を付けましょう」

「ぐっ……!!」


 何なんだ! 何なんだこいつは!!!


 さも間違っていないような態度で!! さも俺などどうでもいいような口調で!!


 俺は勇者だぞ!? この国で唯一の魔王を討伐する男、それが俺だ!

 パーティーメンバーこそ俺を敬えよ!!


「お前はもう許可なしに魔法をうつな。いいな。これは命令だ」

「了解しました」


 マルタは淡々とそういうだけで、パーティーの後方に戻っていった。


「マオト様、あんな女は放っておいて先に進みましょ」

「だな。行くぞ」


 また先行して進んでいくネトの後ろを追うように俺たちはダンジョンの奥へと進んでいった。


 その後はほとんどイラつくことなくボスエリア手前までやってきた。

 まあ、突っ立てるだけのマルタにはイライラしっぱなしだったが。


 ─────────────────────────────────────

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