第33話 トカゲとどちらが賢いか

 ~勇者視点~


 ドーデモイ・ダンジョン最下層、ボスエリア──。


 途中マルタのせいでテンポが狂ったものの何とか無事に最下層に到達した。


 相変わらずマルタは無言、無表情で俺の後をついてくるだけだった。


 背後霊のような女を引き連れて開けた場所に入っていく。


「──あれか」


 俺たちの正面、段差があり舞台のような地形の上に、ボスはいた。

 マタハリ・サラマンダー。四肢が長いだけの赤いトカゲだ。


 トカゲは自分の縄張りに侵入してきた俺たちを見つけると、尻尾で立ち上がり、青い舌を見せつけて威嚇してきた。


 身の丈の3倍はあるかという巨体に見下ろされ、否が応でも足が動かなくなる。


 馬鹿、勇者が怖気づいてどうすんだよ……!!


「行くぞお前ら!!」

「ええ!」

「はいっ!!」


 裂帛の気合とともに繰り出した斬撃は、ひらりと大きさの割に軽い身のこなしで避けられてしまう。


 サラマンダーは俺の斬撃を避けた勢いのまま、セネカの矢を叩き落とし、ネトに肉薄する。


「きゃあ!!」

「ネト!!」


 サラマンダーの体当たりを食らい、華奢なネトの身体が壁に打ち付けられた。

 遠慮などあるはずもないトカゲは次の獲物とばかりにセネカへと頭を向けた。


「──!!」

「セネカッ!! 狙うなら俺にしとけクソトカゲ!!」


 サラマンダーの突進を剣の腹で受け止める。

 全身を駆け巡る鈍い衝撃に骨がきしむ。


 ちょろちょろしやがって……!! 


「おい、お前も突っ立ってないで働け!!」

「命令があるまで魔法は打つなといわれたので」

「言い訳は今じゃねえだろォ!! さっさとしろクズ!!」


 ため息交じりにマルタは魔導書を開くと魔力を集め始めた。


「『コールドダウン』」


 赤いサラマンダーの皮膚に真っ白な霜が降りる。

 トカゲが白く化粧されていくにつれ、俺の剣にかかる圧力が弱まっていった。


「攻撃魔法じゃねえのかよ!!」

「いいのですか? あなたにも直撃しますけど」

「口答えするなァ!!!」


 怒りに任せてサラマンダーを弾き飛ばすと、勢いのまま肉薄、一刀でその首を切り落とした。

 中枢神経を失ったトカゲの身体は魔力の塵となって消えていった。


 ボスが討伐されたことを祝福するかのようにボスエリアの最奥にダンジョンコアが現れる。


「今回もクエストクリアですね!!」

「ボスには少し苦戦しましたけど、全体的には余裕がありましたね。さすが勇者様です」

「ああ、そうだな」


 俺はコアに近づくと淡々と刃を振るい、切り落とす。


 不快だ。納得がいってない。

 サラマンダーが急激に弱体したのはあの女の魔法の餌食になっていたからだ。


 あの女のおかげでボスの首をとれた。

 ネトもセネカも薄々わかっている。


 手柄を横取りされたみたいで納得いかねえ……!!!


 心の底に不快感をくすぶらせたまま、俺たちはダンジョンを後にしたのだった。


 ☆

 1か月後、ファンダイク領でのクエストをすべて終え、俺たちはついに魔王領へと向かうことになった。


 借りていた部屋を片付けているとレイアが扉の隙間からひょこっと顔を出した。


「え~もう行っちゃうんですかぁ?」

「もうって、ここには結構長居したからな。いいだろ出てって」

「でも寂しいですよぉ~」


 口では寂しいと言いながらも自然と片づけを手伝ってくれるところはポイント高い。

 このくらい察しがよくて使える女は許されるなら攫っていきたい。


 なんならマルタとレイアをここで交換していきたい。


「なら一緒に来るか? お前一人くらいならパーティーに入れてやってもいいぞ」

「でも私はここにいないといけませんから」

「いい加減教えてくれよ。何が理由だ? 金か? 脅しか?」

「気になるんですか~?」

「金なら出してやる。脅しならこのまま攫ってでも連れていく」

「乙女の秘密、そんなに知りたいんですかぁ?」


 クッソ、かわいい……!!


 ほとんど片付け終わった室内で見つめ合う。

 吸い込まれそうな瞳から目が離せなくなる。


 身体の勢いに任せ、レイアの肩を鷲掴みにし、押し倒す。

 上気した頬、これから何をされるかすべてわかっているかのような蠱惑的な笑み。

 そのすべてが俺の本能に被さった皮を取り払っていく。


「レイア……」

「はい……どうしましょうか?」


 ムクムクと体の奥から熱が集まってくる。


 もう、こいつは俺のモノになった。


 熱を帯びた息と息が混ざり合っていく。


「片付け終了しました……ってナニしようとしてるんですか。それでも勇者ですか?」


 慌てて頭を上げると、当然のように開いていたドアからマルタがこちらを蔑んだ目で見降ろしていた。


「出発しますよ」

「勝手に入ってくんじゃねえよ!!」

「開けたままそういうことするあなたが悪いんじゃないでしょうか」


 再びレイアに目を向けると大きな目がいたずらっぽく歪んだ。


「てめえらコケにしやがってよォ!!!!」


 殺風景になった部屋に俺の絶叫が響き渡った。


─────────────────────────────────────

【あとがき】


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