第56話 血よりも金

 演説後から一週間後、反響は領外にも広がっていた。


「広まるの早くないか?」

「国境付近の街にも空間の亀裂を配置してましたから情報が早く流出したのでしょう。それに国家反逆という他の領主たちも見過ごせない事案ですから」


 そう言うマルタから紅茶を受け取ると、応接室の机に整然と並べられた手紙にため息をつく。


 ギルドからの建国にあたっての協議要綱を伝える手紙。

 他の領主から交易に関する懸念を伝えられた手紙。

 国王から正式に断行するとの旨が書かれた手紙。

 そして、


「こういうところは律儀なんだよな。あの魔王」


 魔王領から同盟締結を証明する文書が同封された手紙。


 ここ一週間ですっかり時の人となってしまったのだ。


「うちってこんなにも貿易してたんだな」

「そりゃそうでしょう? 作りすぎた農作物が全部輸出されてるのよ」


 ふらっと自分用のコーヒーを片手に入ってきたイレリアが呆れたように言う。


 農作物が貿易されているのはさすがに知ってはいた。けど、他領から懸念事項として伝えられるまで輸出されているとは予測していなかった。


 確かに、税金は下げて魔物も襲撃しなくなった。

 安全と金の余裕が生まれたおかげで栽培の効率化や最大化が行われたのか?


 執務室から報告書を引っ張り出してくる。


 確かにここ数年、農作物の生産高に対して、徐々に輸出量が領内の消費量よりも高くなっていっている。

 商人ギルドでの取引しか記載されていないため現代ほど正確ではないが、明らかに輸出量が増加していると言っていいだろう。


「でも、国王は国交を断絶しただけで、禁輸はしてないからな。貿易に関して言えば今のところ問題はない」


 モノの取引と国のやり取りは別の次元の話。


「まあ、今考えるべきは禁輸された場合の輸出先と、魔力を動力とするシステムの開発だな」

「その二つだけ、ですか?」

「何よりまず国の地盤を強固に、そして豊かにすることが先決だ。武力があっても継戦できる経済的体力がなきゃ、勝てないんだよ」


 防衛するにも発展させるにもまず資金が必要だ。

 そのためにも安定して稼げる産業を作らなければいけない。


 今のところ、ファンダイク領は農作物はそこそこ稼げているものの、これといった特産品の類はない。魔王領に近く、他の領に比べて土地がやせているため農作物の特産品を開発するのは難しい。


 だからこその魔王領との共同開発を始めるわけだが。


「やることは決まったんだ。早速動くぞ」


 こうして俺のブレヴァンは国造りRPGとなったのだった。


 ☆


「して、お久しぶりですな!! 吾輩が作り上げたダンジョンはご満足いただけましたかな?」

「なんでお前がいるんだよ!!」


 一週間後、俺は魔王領と魔力機械の協議をするべく、各職人ギルドとともに国境の町に赴いていた。

 魔王領側の職人たちと話ができると思っていたのだが、やってきたのはあのアシ・ニトクリス一人だったのである。


「なぜって魔王領において魔力関連事業の統括は吾輩の本業ですからな」

「ダンジョンメイカーじゃなかったのかよ」

「ダンジョンなんておいそれと想像していいシロモノではありませんからねぇ。それに、魔力で絡繰りを創造するのはこちらとしても初めての試みでございますれば。魔物に絡繰りは複雑すぎるので」


 にっこりと笑うとアシはテーブルの上で手を組んだ。


 俺が出向いといてよかった……こんな奴の相手、初対面の人間にさせるところだった。


 同盟相手とは言え、こいつは最も信用ならない部類の魔族だ。交渉の主導権が奪われてしまったらこちらに利益が残るかすらもわからない。


「弱いからこそ人間は身体を拡張し工夫し始めるんでな。全員いるなら会議を始めようか」


 その後、ギルドのオヤジさんたちに魔力の性質、地脈の位置等、魔力に関する基礎知識を共有し、それぞれのギルドでアイデアを出し合ってもらった。


 皆、だるまのような顔で黙りこくっている中、鍛冶ギルドのマスターが口を開いた。


「なあ、その魔力ってのは人間の体内から注ぎ込むってのは可能か?」

「ンン、なるほど。できなくはないですぞ。経路さえ確保できれば、使用者の魔力も使用できるでしょうな」

「だったら魔法剣はどうだ? 炎の剣とか使えそうじゃねえか?」


 これまたファンタジーなモノが出てきたな。

 炎だと扱いが難しそうだけど、魔法属性さえ変えれば開発価値はある。


 鍛冶ギルドのマスターは少年のように目を輝かせながらなおも続ける。


「魔法を飛ばす遠距離武器とかあってもいいよな!」

「ンンンンン、ちょっと待ってくだされ」


 眉間にしわを寄せ、アシが手を挙げた。


「魔力を通すことは比較的容易なのですが、魔法に変換するとなると使用者の魔法適性が高いことが条件に入ってきます。使用者が一部の人間に限られますがよろしいのですかな?」

「ああ。そもそも高級な一級品のつもりで作るつもりだ」

「ンンンンン、でしたら……」


 テンは顎に手を当てて考え込むと、晴れやかな笑顔でこう言った。


「ンンンンン! 却下です。切られるのは魔物でしょうからね!!」


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【あとがき】


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