とにかく作ってみた!
厚い紙の束をどさりと畳の上に置くと、インク独特の匂いが部室に広がった。ひめちゃんは一番上のを丁寧に摘まみ上げる。みんなの前に見せてにまにま笑う。
「みてみて、ほんまにウチが表紙になってる!」
神戸の寄席をバックにポーズを決めるひめちゃん。喜楽館の白いゲートが映えるように構図もバッチリ。加工もしてあってオシャレに仕上がっている。
「いい。かわいい。これなら古く感じひんね」
記念すべき第一号の特集は寄席。そもそも落語がどこで聴けるのか分からない。そんな意見があったので、まずは身近な喜楽館の特集を組んだ。
館内の雰囲気や周辺の食事スポット、チケットの値段や買い方などの基礎知識も掲載。みんなの知りたい情報をコンパクトにまとめた。紙面はカラフルで写真多め。小さな鞄にも入るようにサイズはB6にした。
『日々の暮らしに落語を』をコンセプトに四人のカラーをぎゅっと詰め込む。こうして四ページの小さな冊子『寄せあつめ』が完成した。
「できたね。私たちのD.I.Y」
部室は肌寒かったけど心は暖かい。みんなで力を合わせて一つのモノを作り上げたことが嬉しい。四人だからこそできたんだ。きっと一人ではできなかった。
「ありがとう。私のわがままを聞いてくれて」
「いや、こっちこそお礼を言わせてよ」
うららちゃんは私の手を力いっぱい握る。
「ほたるんが提案してくれた時、すっごい嬉しかった。正直言うと諦めてたの。あたしたちは落語を好きなだけでいい。それ以上は何もしなくていいって。ただのファンは何もしなくていい」
かぶりを振る。短い髪を揺らす。翠色の瞳が強く輝く。
「でも、あたしだってこのままじゃイヤ。みんなでもっと笑いたいもん。今を生きる落語家さんをもっと応援したい。光を当ててあげたい!」
部長の熱い思いがみんなに伝わる。四人で手を重ね合わせて気持ちを一つにする。種は撒いた。あとは一つでも芽生えればいい。愛だけはたっぷりと詰め込んだから。きっと誰かの心に届くはず。
私たちは冊子を抱え、部室から一歩を踏み出した。
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