8話 神戸スイートダイアリー
ふたりの休日
夏休みが明けてから初めての週末。私はきくりちゃんに誘われて
そんな塩屋にも落語会がある。
塩屋heso.は古民家をリノベーションした雑貨屋。その二階に会場はあった。木造のあたたかい造り、立派な
開演前にふと横を見る。レモン色のシャツを肩にかけたオシャレな彼女は、両手のひらをパイプ椅子とスカートの間に入れてる。香箱座りをする猫みたいに見える。こちらに気付くと目を細めて笑った。
ここに誘われたのは数日前のことだった。部室で二人きりになった時に彼女は、辺りをきょろきょろ見てから言った。顔を赤くして。
――「二人だけで出かけたいの」と。
なんだか体がおかしい。ふわふわする。恥ずかしいから高座の方をぷいと見た。ところで落語というのは心の持ちようで変わるらしい。今日は想像がいつもよりほんわりしていた。
しゃぼん玉のように景色が浮かんでは消えてゆく。
ある二人の日常が浮かぶ。彼らは互いの癖を直そうとお金をかけあう。賭けごとなんてと思うかもしれない。でもこれは心を許しているからこそ出来ることなんだ。相手を知り尽くしてるからこそ。
私はまだきくりちゃんの癖を知らない。それを知る必要はないのかもしれない。それでも彼女を知りたい。好きになりたい。仲良くなりたい。
――ふいにチョコレートの匂いが鼻先をかすめた。
近くにお店があるらしい。芳醇なカカオの匂いがする。その甘い香りの中にひっそりと隠れるようにビターな香りがした。
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