チョコレートデイト
落語会が終わってから裏手にあるチョコレート屋に行った。今日の会はチョコがおまけでもらえる。それを受け取ってから注文を頼んで、テラス席に座った。
丸いグラスにはアイスショコラ。お皿にはテリーヌショコラ。飲み物も食べものもチョコ。チョコ好きにとっては天国みたい。喉が渇いたので、まずアイスショコラを飲む。小さなチョコが入っていて美味しい。
テリーヌにフォークを入れるとしっとり切れた。味はすっごい濃厚。なのに軽く溶けてゆく。口の中がチョコで満たされる。ああ……幸せ。
「美味しい?」
きくりちゃんがじっと見てくる。心配そうに覗き込んでくる。テーブルを見ると彼女はまだ一口も手を付けていない。飲み物も。
「食べへんの?」
「えっと、まずはほたるの感想が聞きたくて。それでどう?」
「それはもう、めっちゃ美味しいよ!」
「良かったあ。にひひ」
癖のある笑い方にどきっとする。今日の彼女はなんかずるい。だって可愛いんだもん。パクパクと美味しそうに食べるのもだし、口にチョコが付いてるのも可愛い。指で取ってあげるとなぜか頬を膨らませた。気まぐれな猫みたいで可愛い。
でもどうして私が食べるのを待ったんだろう。それに今日のきくりちゃんはいつもと雰囲気が違う。疑問を抱きつつも店を出た。
お土産にチョコを四袋買ったら街を歩く。
塩屋は坂が多くて道の狭い静かな街。きくりちゃんによると、ここは若者の流行スポットらしい。確かにオシャレな店が多いし、同い年ぐらいの子も歩いている。賑やかではないけれど静かな活気を感じる。
坂道を下っていると古着屋を見つけた。
あんまり服に興味はないけれど、きくりちゃんが喜びそうなので入ってみることにした。彼女がさっきから古着屋に目線をやっているのを知ってたし。
「ほ、他の場所にしようよ」
と視線を逸らす。明らかに嘘をついてると分かった。目の色が好奇心で満たされてるから。やっぱりおかしい。遠慮してるのかな。だったら私から攻めてみよう。
「きくりちゃんにコーディネートして欲しいな。だめ?」
「むう……」
腕組みしてぷっくりする。じっと見つめてもう一押してみた。きくりちゃんの好きな物を私も好きになりたいと。すると根負けしてくれた。
「任せて。とびっきりのコーデにしてあげるから」
それからいくつか服を選んでもらった。組み合わせてみて、どれも似合うと褒められるからそう思えてくる。さらに褒めてくる。
「うん。どう見ても十三ぐらいに見えるよ」
「それって子供っぽいってこと?」
「間違えた。どう見ても二十五、六に見えるよ」
「どっちなん?」
二人でくすくす笑う。そのセリフが落語の『子ほめ』だと分かって二人だけで嬉しくなる。結局服は買わなかったけど、気に入ったアクセサリーがあったので買った。
「なに買ったん?」
「ひみつ」
ムスッとしてまたほっぺを膨らませる。それが可愛くて、つい「かわいい」と声に出してしまった。顔がみるみる赤くなるから、もっと言いたくなる。イジワルだからやめた。背を向けられた。
「――まだ大丈夫、作戦はこれからやし」
「作戦?」
「ななな何でもないよ!」
やっぱり今日は変だ。何かを隠してる。でも何を?
「ところで晩御飯なんやけどね、その……」
夜も一緒に食べようと約束していた。だけど場所は聞いてない。どこでもいいよと返したら、「一緒に食べたいとこがあるの」と照れながら言われた。それってもしかして――
「ウチの家じゃあかんかな?」
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