祭りのあと

 どれぐらい気を失っていたのだろう。目を覚ますと辺りは薄暗かった。背中に当たる畳の柔らかさで部室だと分かる。ごろごろと寝息が聞こえる。隣でひめちゃんが丸まって寝ていた。


 うららちゃんは口を開けて涎を垂らしてる。しずくちゃんはしっかりと抱きついてる。四人で大きなブランケットにくるまれている。


 首をもたげると枕元に何かあった。封筒と缶らしい。


 封を切ると有馬温泉の旅券が入っていた。缶のココアはまだ暖かい。二人のサンタさんから早めのクリスマスプレゼントを貰った。お姉さんのはちょっとケチだ。でも嬉しい。


 みんなの寝顔を見ながら物思いに耽る。この一年はほんとに色々あった。特別なことがあったわけじゃない。なんてことない日常だった。愛おしくて幸せな日常。


「まあ、落語を見に行ってただけなんやけどね」


 ココアを飲みながらスマホで文字を打つ。「少し遅れます」とお母さんにメッセージを送った。スマホのアラームをセットしてブランケットに潜る。


 今夜は家に集まることになっている。両親がみんなにお礼をしたいらしい。たくさん料理を準備してくれてるみたいだ。だけどもう少しだけ、みんなと寝ていたい。この楽園で。


 瞼を閉じて想像してみる。

 

 これからのことを妄想して楽しくなる。クリスマスも寄席に行きたい。お正月には『初天神はつてんじん』を聴きたいな。幸せな未来をいっぱい妄想する。


 レコードから心地いい落語が流れている。お姉さんが聴いていたのだろう。『三十石さんじゅっこく』の景色が浮かんでくる。水面に映る星空、闇夜に浮かぶ三十石船。のんびりとした舟歌は私を夢路へと誘った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る