9話 ピンチ!落語スランプ!?

ほたる最大の危機?

 ひめちゃんが心配だった。


 たった一日しか経っていないけれど心配だった。別れた時は笑顔だったけど、また不安になってないかな。とにかく笑顔で登校してくれればそれでいい。それでよかったのに――


「ほたる。結婚しよ?」

「へ?」


 ひめちゃんの柔らかい体に包まれる。ちゅーできそうなほど顔が近い。宝石みたいな瞳に見つめられたまま、彼女は甘えた声でそう呟いた。


 出会って三秒で告白された。私も昨日したけど。一生かけてお返ししあおうって。でもあれは彼女を笑顔にしたくて言ったことで、つまり冗談半分で。じゃあもう半分は?

 

「とにかく早すぎるというか、それに結婚なんて」

「じゃあちゅーしよ?」


 ピンクのリップはぷるぷるで可愛い。ほんと言うとちゅーしたい。でもここでしたら、私の何かが壊れてしまいそうで思いとどまる。


「ちゅーもあかんのー!」


 その場はなんとか断ったけど今日はずっと距離が近かった。授業中もお昼もべったり。私たちの仲は一気に深まった。それどころか飛び越えたかもしれない。ということは恋人?


 幸せなのに心がもやもやする。自分の気持ちが分からない。

 

 そんなどっちつかずの私に天罰が下った。部室で落語を聴いていた時だった。自分の身に起きたことに愕然とする。

 

 ――落語がつまらない。


 想像がまったく浮かばない。知ってるネタでも言葉が頭に入ってこない。こんな状態で寄席に行ったら落語家さんの迷惑になる。


 もうみんなで落語を聴けない。ひめちゃんと一緒に笑えない。このままじゃ何もかもが嫌いになってしまう。好きなのに。


 たぶん、落語は心のコンディションに左右されると思う。 


 この不調は私のせいだ。でも彼女は自分のせいにするはず。だったら黙ってないと。どうかばれませんようにと願いながら、愛想笑いをしてごまかした。唇を指でなぞられた。


「愛想笑いもかわいい……やっぱり結婚しよ?」

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