ようこそ落語エンジョイ部へ!

らっこ

1話 死ぬなら今

18歳、自殺します

 青空を見上げると足元がぐらりと揺らいだ。

 大学の屋上では海風が強く吹いている。それに逆らうように、重い足取りで歩みを進める。ごとりごとりと靴が音を立てた。


 赤い肩掛けカバンをぎゅっと握りしめ、下を覗く。噴水公園が小さく見えた。そこにいる小さな人たちはキラキラした笑い声をあげる。


 あの笑いがとても怖い。まるで私が笑われているようで怖い。そんな被害妄想に囚われている私が一番怖くて大嫌い。

 

 ――今日で終わろう。


 お父さん、お母さん。こんなどうしようもない娘でごめんなさい。生まれてきてごめんなさい。私、自分を好きになれないよ。だから。


 じんわりと汗が浮かぶ。セミの煩い声が私の鼓動とリンクする。むくむくと湧き上がる入道雲のように死を湧き上がらせる。耳の奥で壊れそうなアラベスク第一番が流れる。柵に手をかけた。そしてついに一歩を踏み出した。死ぬなら今――


「ぶひゃあっ!?」


 ――?


 突然目の前が黒く塗りつぶされる。頭は真っ白になる。ただ一つ分かるのはお尻がめっちゃ痛いこと。


 びらびらと音がしてそこでようやく分かった。風に運ばれた紙が顔を覆い、私は盛大に尻もちをついたらしい。でも立ち上がる気力はもうない。


「死ねなかった」


 泣く気にもならない。枯れてなんにも出てこない。


 私の死を邪魔したモノを顔から引っぺがす。それはA4サイズの薄いチラシ。太陽に透かした紙には丸いフォントでこう書かれていた。


「落語……エンジョイ部?」

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