作戦会議!

「問題はだ。誰を勧誘するかだ」


 どこから持ってきたのか、部室にはホワイトボードがあった。そこには二つの選択肢が書いてある。荒い文字で大きく。


 初心者を沼に引きずり込む。落語好きを探す。


「残り期間は短い。一つに絞った方がええと思うんよ」


 そう言って部長がボードの前で腕を組む。

 興味のない人を落語好きにする。それは趣味の押し付けになるし、時間もかかる。あくまで私の考えを伝えた。


「そうやね。というかさ、ほたるんは落語に興味あったん?」

「実は――」


 私はあの日のことを話した。興味を持ったきっかけを。まず屋上で飛び降りようとしたこと。そこにチラシが飛んできたこと。そこまで言って、ある考えが浮かんだ。


「興味のある人おるかも」

「どういうこと?」


 私は部室にあった紙を一枚拾い上げ、胸の前に掲げて見せた。


「あの日このチラシを誰かが手にしたはずです。じゃないと私の顔に飛んでこんかった。つまり誰かが捨てた。その人を探しだせれば」


 うららさんは頷いて、自分の書いた文字を見る。


「いける。となると、少なからず落語は知ってるかも。落語好きに狙いを定めるとして、さてどうするか……」


 スッと白い手が上がる。


「思い人を探すんでしょ? やったら『崇徳院すとくいん』はどう?」

「それもいけるっ!」

  

 崇徳院とは落語のネタらしい。二人がボードに絵を描いて教えてくれた。それは携帯のない時代の恋愛噺。男女は恋に落ちるも、連絡先を知るすべがない。そこで女性が残したのが和歌の上の句。


 『瀬をはやみ岩にせかるる滝川の』


 この言葉を手がかりに想い人を探し、別れた二人がまた出会う噺。


「二人ともありがとう。ここからはあたしに任せて。落語好きを探し出す作戦、何とか算段してみせるから。瀬をはやみ大作戦をね」


 指の腹で押し上げた丸メガネは、縁をなぞるようにぐるりと輝いた。

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