3話 新入部員を探せ!

楽園崩壊?

 七月も半ば。蝉の合唱が一段と盛り上がる、午後。

 クーラーのよく効いた部室ではラジオから落語が流れていた。


 畳に寝転がって、ぼーっと聴く落語も好き。ぽわぽわとした想像が浮かんでは消える。何も考えないでゆるく聴く落語もいい。


 寝返りをうつと、隣で寝てるしずくさんと目が合った。お人形さんみたいな顔がふにゃっと笑う。人の笑顔は連鎖するらしい。落語の面白さも膨らんだ。二人の笑いが部屋に漂って泳いでいる。


 そんな楽園が突然崩壊を告げた。


 勢いよく扉が開いた瞬間、廊下からぬるい風が一気に入ってくる。ラジオが倒れて音が消えた。私たちはむくりと起き上がった。


「二人とも聞いて、ここ廃部になるかもしれへんの!」


 うららさんは弾むような声で言う。

 

 話を要約するとこうなる。夏休みが始まる前にあと一人、部員を勧誘しないと廃部。顧問である学長からそう言われたそうだ。


「どないするんですか?」

「そんなん決まっとるやん。あたしらは落語エンジョイ部。やったら落語にならって、ピンチも楽しむべしっ」


 ドスンと畳を踏みしめて、革命家のごとく腕を振り上げる。

 

「というわけで、今から作戦会議をするっ!」


 さっきまで寝ていた髪の毛ぼさぼさの私たちは、顔を突き合わせ瞬きをした。それから力なく手を上げて「おー」と言った。あくび混じりの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る