今年も来年も

 寄席を出ると街の喧噪が戻ってくる。

 夏の夜風が気持ちよかった。


 伸びをする二人を見る。私より少し背の高い二人。お姉ちゃんが出来たみたいで嬉しかった。二人との部活動もあと半年で終わる。だから終わってしまう前に、お礼を言わなきゃ。


「あの、ありがとうございました」

「なになに、そんな改まって」


「こんな私に手を差し伸べてくれて、嬉しかったんです」

「勘違いしとるよ。だって全部自分のためやから」


 翠色の目がまっすぐ見つめてくる。よく磨かれたガラス玉。


「ほたるんと初めて会った時、一瞬で分かった。これは死ぬ時の目をしてるって。放っておいたらあたしは一生後悔する。……だからごめんね、自分のためなんよ」


 言葉が出なかった。ただ胸の奥がじんわり暖かくなる。どうしてそこまで出来るの。そう思った時。すべてを見通すような、蒼色の目に優しく見つめられた。水晶玉に私が映ってる。


「わたしらも同じやったからね。だから笑って欲しかったの」

「同じって」

「そう。まあつまり『女18、色々あるわ』ってことやね」


 そっか。女じゅうはち。女じゅうはち?


「二人とも先輩やなかったんですか!? てっきり四年生やと」


 言ってから失礼だと気付いた。うららさんのメガネがずれる。しずくさんは頬に手をあて、シミ消しクリームのCMみたいなポーズをしてる。


「どうしよう、うららちゃん。わたし老けて見えてたみたい」

「落語好きのせいや。あたしら人生を達観しすぎて……」


「ち、ちゃうんです! お姉さんに見えただけで、すごい大人ぽかったから、それであれで……」


 良かった。これからも一緒にいれる。一緒に卒業できる。この嬉しい気持ちを二人に伝えたい。私は深く頭を下げて、精一杯の笑顔で言った。


「今年も、来年もよろしくお願いします。うららさん。しずくさん」

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