11話 たったひとりの一門

円都ふたたび

 澄んだ青空に白いエントランスゲートが映える。足音が四つ、喜楽館の前で止まる。今日ここへ来たのは落語を見るためではない。ある人とここで会う約束をしているのだ。

 

 ひと気のない商店街にからころと下駄の音が響く。眩しいほど真っ白なジーンズ。大きめのぶかっとしたオレンジ色のジャケット。太陽のように明るい笑顔。お姉さん、橘ノ円都たちばなのえんとさんが手を上げる。


「よう、冒険者。とその仲間たち」


 私たちは深く頭を下げた。


 文化祭に落語家さんを呼びたい。そう考えた私はダメもとで円都さんに電話をかけてみることにした。大金は用意できないけれど、出来ることならなんでもしますと。すると二つ返事で引き受けてくれた。


 出演料はタダでいい。その代わり条件があると言って。


「よう弟子っち。久しぶりやね。元気してた?」

「弟子ちゃいますけど元気です。これ、お土産のチョコです」


 ひめちゃんはムスッとして横目で私をぎろりと睨む。焼きもちらしい。お姉さんは頬を膨らます彼女にちらりと目をやる。するといきなり私の肩を抱いた。まるで見せつけるようにニヤッと笑って言う。


「ねえ、ワタシの部屋で口移ししたのまだ覚えてる?」

「くくく、くちうつし!?」


 ひめちゃんは三十センチぐらい飛び上がって驚く。キスじゃなくて落語を教えてもらったと誤解を解くのにだいぶ時間がかかった。ほっぺにちゅーをして許してもらえた。お姉さんはニヤニヤしてる。困った人だ。


「でもまさか、円都さんと知り合いやったなんて」

「知ってるの?」


 うららちゃんは当然というようにメガネを上げる。しずくちゃんもうんうん頷く。二人は興奮した様子でお姉さんの偉業を教えてくれた。神戸で円都の名前を復活させたこと。たった一人で一門を背負っていることを。


 たった一人。 


 どういうことなんだろう。ふわふわと疑問を浮かべていると肩を叩かれて我に返る。ここにきた要件を思い出す。文化祭に出演する条件、それは円都さんの独演会を手伝うことだった。


「それで私は何をすれば?」

「君には今日、高座に上がってもらうから。お茶子ちゃことしてね」

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