2話 私を寄席に連れてって

寄席に行こうよ!

 大学の食堂は午後からカフェになる。私はいつもどおり端っこの席に座り、アイスココアをちびちび飲んだ。冷たくて甘くて生き返ります。


 食堂は六階にあって、ガラス窓からは海がよく見える。穏やかに揺らるる水面は、陽射しを浴びてキラキラ輝いていた。あちらも同じく。


 大軍団を引き連れたキラキラグループ。


 私は少しだけあれが怖くなくなった。たぶん皆それぞれ悩みがあって、ああして笑うことで発散してる。そう思うと、あのキラキラが綺麗なランプに見えた。笑い声ランプが眩しい。


 その電飾の一人が突然こっちを見た。黄色いサングラスを頭に乗っけた派手な子。目がばっちり合う。なんだか凄く睨まれてる気がする。


 やっぱり怖いや。でもあの子どこかで――


「お嬢さん、お一人ですか?」

「隣ええかな? ほたるちゃん」


 見上げると二人がいた。


 四人掛けのテーブルはケーキセットでほぼ埋まる。うららさんはモンブランをぺろりと平らげると、グラスのアイスコーヒーを飲み干して言った。


「次の活動やけどさ、寄席よせに行ってみいひん?」

「寄席?」

「そう。そこは落語好きにとってのテーマパーク。しかもそれは神戸にあってね」


 うららさんはノートパソコンを広げると、小麦色の指先でタッチパッドをなぞる。喜楽館きらくかんと書かれたページには、たくさんの落語家さんの名前が書いてあった。


「この寄席は落語のためだけに作られた施設。つまり落語を最・大・限、楽しめる空間なんよっ。どう、行ってみる?」


 そんなの決まってる。だから大きく頷いた。


 しずくさんは静かに紅茶を啜り、柔らかく微笑む。そして脳からアルファ波が出るような声で言った。口元にほくろのある彼女が言った。


「うふふ。じゃあ行こっか、ほたるちゃん。に」

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