12話 文化祭!

文化祭開催!

 焼きそばのいい匂いがする。たこ焼きのジュージュー焼ける音がする。色とりどりの屋台が並んでいる。私は生唾を飲みこんで、足早に通り過ぎて行った。文化祭はもう始まっている。


 お姉さんから提示された、もう一つの条件。

 

 それは『本当に興味のある人以外は落語を見ないで欲しい』というものだった。そのためには入場料も徴収する。お金を払ってまでも見たいと思わせないと意味がない。寄席には足を運ばない。


 彼女の提案を受け入れて、こちらからも条件を追加する。


 チケット代は五百円、落語は一席だけにして欲しいと伝えた。初めての人でも聴きやすくするためだ。演目も話し合って決めてある。理解しやすくて笑える、落語らしい緩さもあるネタを選んだ。


 ちょっとした仕掛けも施した。本番が楽しみだ。


 大学にある小ホールは寄席の規模とほぼ同じだった。高座の上でマイクチェックをして座席を見渡す。一階席と二階席にいる二人に向かって軽く喋ってみる。どちらも手で丸を作った。


 照明の方もちょうど良かったので、調整室にいるひめちゃんに舞台上からサインを送る。手を振り返される。そろそろ開演の時間だ。


 お囃子さんの足りない手は私たちで埋める。太鼓や銅鑼どらに拍子木などは事前にみっちり練習しておいたから大丈夫だ。一番太鼓を鳴らす。二番太鼓が響く。客席の奥までずうっと鳴り渡った。


 ――誰もいない客席に。一人だけしかいない客席に。

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