秘密の隠しごと

「きくりちゃん。どうしたの?」

「ごめん。ウチ嘘ついてるの。ほんまは怒ってるから」

「……私、何かした?」

「したよ。忘れたの?」


 思い出せない。何気ない言葉で傷つけてしまったのかな。だったらなんて最低なんだ。大好きな友達を泣かせるなんて――。


「ウチはちゃんと覚えてるよ。ほたるのしたこと覚えてるから。あの日、ウチに手を差し伸べてくれたことを。一人旅してくれたことも」


 ――あの日。彼女に声をかけた日。一緒に寄席に行った日。


「ウチは自分に怒ってんの。だってずるいもん。ウチだってほたるにお返ししたいもん! なのに料理は失敗するし、ほんまは服に興味ないよね? でもウチのためにお店に入ってくれた。お返しするどころかされっぱなしで……」


 ぽたぽた涙が落ちる。彼女もお返ししたかったんだ。私に。


「もう充分お返ししてもらってるよ。友達になってくれただけで」

「でも」


 その先は言わせない。私にも言いたいことがあるんだから。 


「私がココア好きやからチョコレート屋さんを選んでくれたんでしょ? 人の多いところが苦手やから、静かなところを選んでくれたんでしょ? 明石焼だってそう。私のことを考えてくれただけで嬉しいよ」 


 彼女の肩を掴んで押し返す。二人で向かい合って座る。綺麗すぎる涙をハンカチで拭いてあげる。


「この間の大阪だって、一緒に考えてくれたら上手くいったの。私だってもっとお返ししたいの」


 時計の音だけがかちかちと鳴っている。もうとっくに帰る時間は過ぎている。だけど目の前には涙を溢す少女がいる。テーブルには空っぽのいつもより一枚多い皿がある。そしたらやることは一つじゃん。私は彼女に笑っていて欲しいんだから。


「どうせ帰るんならさ、夜じゃなくてもええよね?」


 ぱあっと明るくなる。笑顔になる。そして強く抱きしめられた。さっきより花の匂いが強く感じる。耳元で「ずるい」と何度も言われた。がばっと私から離れると、赤く腫れた目で私を見つめてきた。


「じゃあお返し。背中流していい?」

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