5話 ソロのススメ
冒険の始まり
私はベットにぼふんとダイブした。体から疲れが抜ける。
この夏休みを利用して私は初めてのバイトをした。
旅館の仕事だった。仲居さんじゃなくて客室清掃。これが結構楽しい。お客さんと合わないようにステルスアクションをする。そして部屋に入って片付けのパズルを解く。
部屋の様子から、お客さんの姿を想像するのも楽しい。きっちりしてる人もいれば、そうでない人もいる。散らかり具合で人が見える。
とにもかくにも、一人でこっそり忍者のようにミッションをこなすのは自分に向いていた。綺麗になるのも気持ちいい。
そんなクエストの褒賞金が今ここにある。
「よし、これでチケットを買おう」
お父さんのお下がりのノートPCを開いて寄席のサイトを表示した。目移りするほどたくさんの公演がある。
「むむむ。どれを選べば」
初めて行ったのと、きくりちゃんと二人で行ったのは、どちらも『元気寄席』という落語会。落語は四席だけで短く、値段は千八百円。手軽に行ける落語会だった。
でも今回は違う会に行きたい。冒険したい。ページをスクロールしていると、一つ目を引く落語会があった。
「たった一人の独演会?」
名前も知らない落語家さんだった。だからこそ、あえて飛び込んでみたくなった。チケットを取るため『ぴあ』を開くと座席表が出た。たっぷりと空席がある。選び放題だ。
「このあいだ二階は座ったし、まだ座ってないとこは……あ。ここ」
そこは、いつもの私なら避けるような席だった。
こうして一つ目の冒険が終わる。自分で選んで、自分のお金で買った初めてのチケット。既に達成感が凄い。でも冒険はこれから。
ベッドによこたわり、天井を見上げてほっと息をつく。携帯が短くピロンと鳴った。きくりちゃんからメッセージが届いた。
「冒険を見届けさせていただきまする」
私は返信をするために、PCの前にクマのぬいぐるみを座らせる。それを私に見立てて写真を撮って送った。メッセージを添える。
「チケットを買ったクマ」
しばらくするとピロン。ネコのぬいぐるみの写真が送られてきた。メッセージが添えられている。
「チケット取れてえらいにゃん!」
私はぬいぐるみを布団に寝かせて、また写真を撮る。それを送信すると冒険の準備にとりかかる。これから始まるのは、きくりちゃんを勇気づけるための一人旅。
「私が伝えてみせるからね。ソロでも楽しいってことを」
使命感もあった。
でもなにより、一人での冒険にワクワクしてる自分がいた。
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