砂漠のオアシス
暖かい
姫路駅には吹き抜けのウットデッキがあって、小さな川があり、足をひたせる。私たちはそこにいた。きくりちゃんと横並びに座って御座候を頬張る。
「おいひいね」
「うん。懐かしい味がする」
そっか。この味はただ美味しいだけじゃないんだ。いつか私も地元を離れた時、明石焼きが恋しくなるのかな。そういうのっていいかも。なんだか改めて自分は前向きになれたと思う。
私の物語も変わった。あの二人と出会ったおかげで。
翠の風と蒼い水が子供みたいにはしゃいでる。川で足をひたして、じゃぶじゃぶと音を立ててる。水の粒がきらきらと反射してる。
「そういえばあのグループはどうなったん?」
「ああ、それはね」
きくりちゃんいわく、あの集団は同じクラスの子たちだそうだ。二人で落語を見た次の日、彼女は謝ったらしい。輪の中から外れるのが怖いから一緒にいること。友達じゃないと思っていたことを。
そしたらこう言われたそうだ。ゆるい繋がりでもええやんって。そういう友達になろうよって。ただ喋るだけの関係でもいいからって。
「自分だけが卑屈に思ってたみたい。話さんと分からんね」
きくりちゃんは水をすくって、また流した。
「あのね、今日決めたことがあんの。流行に乗ってみるわ。落語の波に」
「……落語って流行ってたっけ?」
「流行はね、先取りするのも楽しいの」
「じゃあ私たちはもう、サーフィンしてるってこと?」
してるしてると言いながら、彼女は波乗りのポーズをしてみせる。サングラスがよく似合う。ニャッと笑って見えた白い歯に、小豆が一粒ついていた。
どうやら彼女の物語も逆転できたみたい。
「二人もこっちきいよー」
「気持ちええよ~」
オアシスで二人が呼んでる。小さく手を振り返す。荷物を持って立とうとした時、ふいに袖を引っ張られた。それは甘えた猫が鳴くような声だった。
「でもね……やっぱりまだちょびっと不安なの。一人になること」
「きくりちゃん」
彼女は私よりずっと繊細なのかもしれない。
どうしたら不安を拭ってあげられるだろう。彼女を勇気付けられるかな。みんなといるのは楽しくて落ち着く。でも一人だって楽しいはず。私に出来ることは――
決めた。
「私、冒険してみる。一人で」
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