第9話 接那、職員室でカミングアウトするの巻!
沢江蕨高校職員室のとある一室で、私と神白先生は話し合っていました。
神白先生は、高校サッカー部副顧問なのです。職員室に入ったときには、水上先生がいらっしゃっていなかったので私は神白先生に入部届について質問をしています。
神白先生は日本人でありながら白い肌が目立ち、細身の男性で眼鏡をかけています。また、年齢も若くルックスもいいため女子生徒達からの人気が凄いです。
何せ、IT系エンジニアとして若手社長をやっていたのではないかとか、医学系に相当なコネクションを持っているみたいな根も葉もない噂が誕生するほどです。
流石に、あくまで噂ですよね……?
私がそんなことを思い出している中、神白先生は私の顔を見てこう言います。
「入部か……それも選手じゃなく、マネージャーとしてね……うーん、ちょっと待ってね。この件に関しては、僕一人じゃ決め切るのは難しい内容かもしれない。何せ、部活という物は君の人生を大きく形成するものだからね」
「人生を大きく左右する……ですか」
「うん、そうだよ。部活という物はね。これから続いていく君自身の人生観を構築する上で非常に重要になるんだ。友人だけじゃない。活動内で生み出した実績はAO入試で使うかもしれない。何より、練習に毎回参加することになるだろうから勉強の時間を取ることも難しい」
神白先生は職員室に張られている紙を指さします。
そこには、「自由には責任が付いてくる」と書かれていました。
「この学校はね。基本的に自由なんだ。けれども、自由にはもちろん対価が必要となる。高校一年生から始まるカリキュラムは中学生時代の勉強よりも非常に学習時間が多くなるし、成績が低い学生は必ず補修に呼ぶシステムになっている。これは入学したばかりの君に言う話ではないかもしれないが、一流大学と呼ばれるところに入学する学生は勉強時間を常に自ら生み出し学習に当てている。君がそういうところに絶対入りたいと考えていないなら話は別だけれど、もしそういう大学に入り……」
「なんで、そんなに私の夢を絶たせようとしてくるのですか?」
「……それは」
淡々と説明を続ける神白先生に痺れを切らした私は口からそのように言葉を漏らしました。
今の私は傍から見たら社会知らずと思われるかもしれません。現実を見ず、夢を追い求めようとする。それも選手として活躍するためではなくあくまでマネージャー。
マネージャーという立場はいつも脇枠です。何故、脇役をやってはいけないのか。
それが分かりませんでした。私がそう思っていると、神白先生は眉をしかめながらこちらを睨みつけています。どうやら、怒らせてしまったのかもしれません。私はそう思いました。
神白先生は塾講師でもあるのでもしかしたら塾の評判を買われて、こちらで教員をやってらしているのかもしれません。もしそうであれば、私のように勉学ではなく部活動に魂を注ぎたいと考えている人物は厄介者でしょう。
すると、神白先生の表情が突如変化します。まるで、厄介者を押し付けることが出来る人物を見つけて喜んでいるように。
私は先生の表情が変化した理由を知るべく、神白先生が見ている方向を見ます。
そこには、水上先生がいらっしゃっていました。新聞記事を読みながらコーヒーを飲み、くつろいでいます。私はチャンスだと思いました。水上先生は、高校サッカー部の顧問兼監督だからです。私は神白先生ではなく水上先生に頼み込むことに決めました。
「神白先生。お時間いただきまして、ありがとうございました。失礼します」
「ああ、うん。それじゃ、勉強頑張ってね」
「……はい、勉強の方も頑張りますね」
私は、ふと神白先生が講義をしている科目が分からないと言おうと思いましたが、その雑念を押し殺し水上先生のところへと行きました。
「あの、水上先生。サッカー部に入部をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「……入部?」
水上先生は、よれている黒髪をなおしながら私の顔を見ました。そして、一度新聞紙を見てからもう一度私を凝視します。いったい何を見ているんでしょうかと思っていると、水上先生はこう言いました。
「ごめんね。マネージャーはうち募集していないんだ。チーム内で恋愛とかの話になったときに争いになるのは目に見えているし、何より君への負担が大きくなるからね。それは、神白先生にも言われたことじゃないか」
「確かに普通の人ならそうなるかもしれません。ですが、私は違います。私はサッカーを愛しているんです!!」
私がそういった直後、周りの教員がざわめきます。とある教員は、「サッカーを恋愛対象としてみているのか……?」という人もいれば、ひそひそと女性教員が噂を話すように話します。私は赤面し、顔を両手で触りながら目を閉じます。恥ずかしすぎる行動をしてしまったからです。
そんな私を見た水上先生は、黒色の鞄を持ってから座っていた椅子から立ち上がり、頭を下げてからこう言いました。
「……すみません、これは私のミスでした」
水上先生は、仕事をしているほかの教職員の方々に迷惑をかけたことを謝罪してから私の方に向いてこういいます。
「いいですね、霧原さん」
「はい、分かりました」
ほかの教職員の方々は何事もなかったかのように仕事を再開します。私も、迷惑をかけてしまったことに申し訳なさを感じたため「ご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした」と行ってから、職員室を後にします。
職員室の扉を閉めてから、先生の後ろをついていくように私は歩いていきます。
その間、水上先生はこのように質問をしてきました。
「……何故、サッカー部のマネージャーになりたいんだい?」
「サッカーが好きだからです。それだけじゃ、ダメでしょうか?」
「……何度も言っているが、それは誰でもいえる言葉だよ。たとえ本心で思っていなかったとしても、言葉だけ言えてしまうんだ。君はサッカーをやりたいというエゴを口に出しても、それが形に見えなければ意味がないよ」
水上先生は、私に難しいことを言ってきました。
今、何故か私は距離感があるなと感じてしまいます。
そんなことを考えているうちに、面談室に到着しました。
クリーム色の扉を先生が開けた後、私も後ろからついていきます。
部屋にはパイプ椅子が二つとパイプの長テーブルが一つ置かれています。
私は、先生が座ったのを確認してから席に座りました。
「今から、質問をさせていただきます。いいですか?」
「……はい」
水上先生は私の顔を真剣に見ながら両手を合わせて手に置き、こう質問します。
「まず一つ目。あなたは、サッカーを何年間やったことがありますか?」
「九年間です」
「……なるほど。それなら、一つ問題を出します」
水上先生は、胸ポケットからメモ帳を取り出しました。
横線が入った四角形のメモ帳に黒色のボールペンでこのように書いて見せてきました。
FW3人の布陣の時、相手DFがボールを保持しているときに行うことを何というか。また、それをやる意図をこたえよ。
丁寧な文字で書かれた質問文を見た瞬間、私はすぐに答えが浮かんできました。
「答えはチェイシングです。チェイシングをやる意図は、相手DFからMFへのパスコースを遮断して速い攻めをさせないことです。また、この戦術を取る際はFWの体力とコミュニケーション力が重要となります。そのため、チーム内でミーティングを行い戦術把握させる必要があると思います」
「……正解だ。じゃあ、これはどうかな?」
水上先生は、〇というマークを質問用の紙に書いてから次の紙に書いていきます。
次の質問は、中々難しい内容でした。
フットサルの戦術で、サイという戦術があるがこれはどのような内容か答えよ。
「……すみません、分かりません」
「まぁ、これは答えられるとは考えていなかったら仕方がないな。じゃあ、最後の質問だ」
水上先生は、最後の一枚という紙を取り出し質問内容を書きました。
その質問内容を見て、私は驚愕しました。
近年のFリーグで得点王に二回なったことのある選手は?
「……荒畑宗平選手です」
「……なるほど、分かったよ」
水上先生は、〇というマークを付けた後私の目を見てこう言いました。
「君は、荒畑宗平選手がコーチになるという情報を知ったから、マネージャーになりたいと言った。違うかい?」
「……はい、そうです」
私がサッカー部のマネージャーになりたかった理由。
それは、元Fリーガーの荒畑さんに会うためなのです。
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