第13話 フットサル解説おばあさんの巻

 四月二十三日、十八時頃。

 生徒が全員下校し、物静かになっているとある校舎内。朝の時は騒がしく生徒達が談笑したり授業を受けていたのが噓だったかのように静まり返っている。それとは対照的に、グラウンドのナイターが光り輝いた。直後、先ほどまで見えなかった人々の姿が映し出される。


 ナイター照明が光り輝くグラウンドの中、スポーツウェアを着ている人達が集まっていた。龍のマークが書かれている赤色のジャージを着ている二十代ぐらいに見える男性もいれば、有名なサッカー選手のレプリカユニフォームを着ている四十代ぐらいの男性もいる。


 何名かはグループを構成し親しく話しており、そのグループの中には女性グループもあった。

 また、まばらに個人でストレッチを行っているものもいる。


 何故グラウンドに様々な人が人達が集まっているのか。その解は非常に明快である。このグラウンドで個人フットサルが行われるからだ。個人フットサルとは、一人の代表者がグラウンドを確保しメンバーを集めてからランダムで5対5のフットサル形式で試合を行っていくものである。


 通常の場合であれば近くの球技を行うことが出来る運動場を指定時間予約し、試合が行われる方式である。しかし、グラウンドを予約する手間や当日にメンバーが集まらないなど、不安定な要素があった。


 そこでとある方法が考案された。

 それは、学校のグラウンドを提供する代わりに500円を募金するという方法だった。その際、中学生は無料としていた。


 代表者も「一人当たり500円で貸してもらえるなら非常にありがたい」ということで了承した。

 以後、参加するときには学内募金ボックスへお金が入るようになった。


 しかも募金という形で徴収しているため、足はつかないのである。

 尤も、後に法律で引っかかる可能性があるかもしれないが、現時点は問題なく行われ続けている。


 このシステムが存在している学校こそ、沢江蕨高校である。

 平均二十人程度集まるため一回につき10000円が入り、週に4回行われ続けるので基本的に160000円が臨時収入として入っている状況なのである。最も、500円玉が320枚と非常に多くなるので管理は難しいが非常用に使用できるお金としては十分なのである。そして、このビジネスを知っているのは主催者と学長の二人のみである。



 そんなことなどいざ知らず、この日接那は三原、市城かなちゃんと共に学校内へと来ていた。久しぶりにやってきた夜のグラウンドに入るとひんやり吹く風が気持ちよく彼女の頬を通っていく。


 接那はこの日、「Seaside」と胸元に書かれた紫色のウェアに白色のサッカーパンツ、紫色のソックスと黒と赤で構成された脛当てを身に付けていた。三原は「祭」と背中に書かれた緑色のウェアに白色のサッカーパンツ、青色のソックスに白色の脛当てを身に付けていた。


「二人とも、やる気なのね」

「うん、何せ荒畑さんと会えるチャンスだからね。ここでは正々堂々上手いプレイをしてやらなきゃ!!」

「その意気ですよ、接那さん。さぁ、そろそろ集合のようですしセンターサークルへと集まりましょうか。あ、それと市城さんはグラウンドの外にある黒色の木のベンチに座ってください」

「分かったわ。頑張ってね、二人とも」


 市城の鼓舞に対して接那と三原は元気良く返答した。


 市城はフットサルをするための格好をせず、黒色の「Go my way」と書かれた帽子をかぶった状態でベージュのスウェット系のシャツに黒系のチノパンツ、黒色の靴下に黒と白で作られたスニーカーを身に付けていた。


 今日の市城の目的は、荒畑の捜索もあるがそれ以上にフットサルやサッカーを勉強することだった。理由は、マネージャーとしての仕事をしっかりと完遂できるようにする為だ。彼女は「サッカー・フットサル勉強ノート」と表紙に書かれたノートの1ページに黒色のシャーペンで日付を書きこんだ。


「おやおや、あなたも観戦かい?」

「あ、どうも。おばあさんも観戦ですか?」

「ええ、お隣、よろしいかしら?」

「はい。どうぞ」

「ふふふ、ありがとうねぇ」


 そんな時、一人のおばあさんが彼女に話しかける。

 モノトーン系統の服に可憐な白薔薇のようなスカート、レディース系統のローファーを履いていた。


 おばあさんは黒色の布を敷いてからゆっくりと木のベンチへと腰掛ける。

 ほっと一息ついてから市城の方を見てこのように質問しました。


「今日はお二人でいらしたの?」

「いえ、今日は友人含め3人で来ました」

「あら、そうなのね。てっきり親御さんの試合を見に来ていると思っていたわ」


 おばあさんはそう話しながら、「私はね、あの人の付き添いできたの」と言いながら一人の男性を指差す。他の参加者は二十代から四十代が多いのですが、一人だけ白髪と皴が目立っている。背筋が若干猫背のようになっており、青色のウェアから出ている腕の筋肉と青色のハーフパンツから出ている太ももの筋肉量が明らかに他の参加者よりも劣っていた。


「正直、大丈夫なんでしょうか? フットサルもサッカーと同じようにラフプレー気味になったりするんじゃ……」

「ふふふ、大丈夫よ。その対策はもちろんしてあるの。事前にこの企画を主催している人にあの人に対して無謀なタックルやプレス、威力を考えない無謀なパスはしないでって言ってあるの」

「え、それって良いんですか?」

「ふふふ、良いのよ。むしろそれがフットサルの良いところなんだから」


 おばあさんは、市城に笑みを見せてからこのように説明を始めた。


「フットサルはね。老若男女構わずみんなが気遣うことが出来れば安全にプレイできるスポーツなの。年齢問わず老若男女誰でもね。その例としてね。ここではラフプレイを禁止にしているの。ハードすぎるプレスも禁止、強すぎるシュートも禁止。ただ、みんなでフットサルを楽しみあうための機会なの」

「なるほど……そういう楽しみ方もあるんですね」


 市城はうなずきながら、ノートに書き込んでいきます。

 おばあさんはその姿を見ながらやさしく笑みを浮かべていました。


「けどね、少し怖いなって思うことがあるの。その例としてね、スライディングは2020年まで禁止だったの」

「え、スライディングって禁止だったんですか」

「そうなのよ。フィールドが狭くて選手達が密集しやすい中、蹴り技何てやられたらひとたまりもないでしょう?」


 市城は驚きつつおばあさんの話をメモしていました。


 「今でこそ、10月16日にFリーグっていうフットサルのプロリーグ内でスライディングが解禁されたけれど、私は正直怖いなって思ってしまったわ。この影響で有望な選手になれるはずだった人達が怪我をして才能が摘み取られてしまうんじゃないかなってね」

 「なるほど……確かに、怪我は選手生命に大きく影響しますからね」


 市城はおばあさんの話を聞きながら状況を想像する。一人の男性がドリブルをしている中、守備の選手がボールごとスライディングをしかけ相手選手を転倒させる。スプリント回数が多いこのスポーツでそんなプレイをされたら小さな怪我では済まないかもしれないと初心者ながら市城は感じていた。

 

「けれどもね。フットサルはみんなで気遣えばだれでも楽しめるスポーツなのよ」

「誰でも、ですか」

「ええ。老若男女問わず、ルールさえ知っていればみんなで楽しさを分かち合えるのよ。そして、ここのフットサルを取り仕切る代表者の方はね。フットサルが好きな方だけれど、みんなが楽しめるように様々なルールを細かく設定してくださっているのよ」

「そうなんですね。知りませんでした。教えていただきありがとうございます」

「うふふ。いいのよ。むしろ興味を持ってもらえたらうれしい限りだわ」


 市城はおばあさんにお礼を伝えてから持ってきていたノートに聞いた内容を書き込んでいく。3分ほどで書き込み終えた後、彼女はとある質問をした。


「ちなみにですが、主催者の方はどなたでしょうか?」

「ああ、そういえば主催者について紹介していなかったわね。今喋っている人よ」


 市城はおばあさんにそう言われてから、その人物を見た。

 20代ほどの黒髪の男性で、「堅実」と胸元に書かれている服に黒色のスポーツパンツ、黒色のトレーニングシューズを履いている。身長は比較的高くなさそうだが、明るく積極的に仕切っている男性だ。


「あの人は、どなたですか?」

「ああ、そうね。まだあの人を紹介していなかったわね……」


 おばあさんは「ちょっとだけ待ってね」と言ってから持ってきていた水筒を飲んでほっと息をついた。そして、おばあさんは代表者の名前を市城に教えるのだった。


「あの人は、隅家健斗すみやけんとさん。エスガバレー埼玉に所属している現役サッカー選手よ」

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