第12話 憧れの人を探す為にまたあの場所に行くの巻

 四月二十二日の天気予報は一日中雨模様だった。

 私とかなちゃんは、窓から外を眺めながら下校していく生徒を眺める。黒と白のストライプ柄の傘をさしている人もいれば、茶色の傘をさしている人、相合傘をしている人。様々な人がいた。


 ボールを用いた練習を主に行っている沢江蕨高校サッカー部はこの日、グラウンドが濡れているため練習を中止した。私は、チャンスだと思った。かなちゃんに現状を伝えるうえでちょうどよいと考えたからだ。


「なるほどね――接那は荒畑さんを追いかけてサッカー部に入ろうとしたんだ」

「うん、だけど水上先生から荒畑さんをコーチとして呼べないなら入部をさせないって言われちゃったんだ」

「何というか、酷い条件だね。どこにいるかもわからない理想の人を追いかけるなんてほとんど無理なことじゃん」


 かなちゃんは学校のいすに腰掛け、右肘を机につきながら眉をゆがめています。改めて考えてみると確かにそうかもしれません。荒畑さんを見つけ、そこから部活のコーチを務めてもらえないか交渉する。高校一年生がやることではありません。私は両肘を机に付けながら顔を抑えながら「どうしようかな――」と呟きました。

 

「あ、そうだ。接那の役に立つ情報かはわからないけれど……はいこれ」


 すると、かなちゃんが青色のノートを渡してきます。

 その表紙には、部員メンバーについてと書かれていました。


「役に立つかはわからないけれど、サッカー部のメンバー一人一人に自己紹介を書いてもらったんだよ」

 

 私は、かなちゃんに渡してもらったメンバー表を開き、一ページ一ページ見ていきます。

 そこには、一人一人の名前に性別、ポジションに似顔絵、好きな選手など事細かく全て手書きで書かれていました。


 「どうかな、接那」

 「ありがとう、かなちゃん!! すごい助かるよ!!」


 私は、かなちゃんにハグしながら喜びを体で表現しました。時間をかけてまでこれほどの資料を作ってくれたことに対して感謝してもしきれなかったからです。かなちゃんは恥ずかしがっていましたが、笑って許してくれました。

 

 「あはは、でもそんなに喜んでもらえるとこちらとしても嬉しいな。それあげるよ。きっと接那が持っていた方が役に立つだろうしね」

 「かなちゃん……本当にありがとう!!」


 私はかなちゃんにお礼を言ってから、メンバー表を読んでいきます。かなちゃん入れて32人分書かれていたので、どうやら31人の選手が所属しているようです。

 また、レギュラー固定されている選手はCBを務めている副キャプテンの則塚千鶴のりづかちづる先輩とGKを務めているキャプテンの衿口智也えりぐちともや先輩だけのようです。

 私は、レギュラー争いが激しいという現状を知れたことに対して深く喜びを受けました。


 何故なら、それはチームが成長をしていこうとすることを証明しているからです。競い合わない戦場に成長はあり得ない。これは、勝負ごとにおいて真理なのです。そんなことを考えているときでした。


 「市城さん。ここにいらっしゃったんですか」


 教室のドアを開けて、一人の高校生が入ってきました。

 白色の長袖ワイシャツに革製のベルトを着け、黒色の長ズボンとローファーを着ています。髪の毛はところどころ跳ねており、瞳はトパーズのように輝いています。


 「三原君じゃん! 一体どうしたの?」

 「いや、ちょっと勉強教えてもらいたくて。もしよければ、お時間頂けますかね」

 「あ、いいよ――」


 かなちゃんがそのように言うと、三原君はと右手で髪の毛を掻きつつも目を細めて笑みを浮かべる。その姿はまるで初恋をしている小心者の少年のようだ。


 そんな三原君に目も降らず、かなちゃんは「ふむふむ……なるほど」と言いながら、問題を解いていきます。そして、10分ほどで三原君が分からない問題の回答と気を付けるべきポイント、三原君が間違えていたところを全て見つけ出し丁寧に解説を書いていました。


 「流石です、ありがとうございます」

 「褒めてくれてありがとうね。あ、そうだ。折角だしこの人見たこと無いか教えてくれない?」


 かなちゃんは、スマホをカバンから取り出すと荒畑さんの写真を三原君に見せました。

 私は、そんなことをしても意味ないだろうと感じていました。何せ、荒畑さんはFリーガーとして名をはせていましたがその後の消息が不明だからです。


 「あ、この人なら最近見ましたよ」

 「え!? どこで!?」


 三原君の一言に、私は驚きを隠せませんでした。何しろ、ここ一週間探しても全然会うことが出来なかった人物だからです。


 「いつ、どこで、どういう形であったの!?」

 「接那。驚くのはわかるけれど、もうちょい小さい声で言ってくれないかな」

 「あ、そっか……何というかごめんね。三原君」


 私は、二人に謝罪をしてから自己紹介を軽く行いました。そして、三原君にもパッと見信用できるのではないかと思ったので私が現在置かれている状況を説明しました。


 「それは大変だね。折角だし、僕も協力していいかな。中学時代は一緒に学校生活してきた友達だし助け合っていった方が良いからね」

「ありがとう三原君! 本当に助かるよ!」

 「ええ。チームのためを思ってくれる人に対して力を貸さないという選択肢はありませんからね」


 私は、予想外のフォローがもらえることに嬉しくなり三原君の両手を手に取りつつ喜んだ。そんな私の態度に対し三原君は何時もの様に落ち着いていた。


「けれども、三原君は荒畑さんを一体どこで見たの?」

「僕が見たのは、この学校の夜間グラウンドです」 


 私をそれを聞いた瞬間、ピンときた。

 1年間の期間が空いているものの、忘れるはずが無かった。


「個人フットサルか!」


 私は直ぐにその言葉が出てきた。


「そうです。昔と違って代表が水上先生ではなくなっていますから、情報が入らなかったんでしょう」

「そう言う事か……」


 私は水上先生の反応の理由を理解し頷いた。顔を合わせていないとすればあんな風に冷たい反応になるのも合点がいく。


「とすると、やることは一つ。三原君、かなちゃん。一緒にフットサルへ行こう!」


 私は二人の前でそう宣言したのだった。

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