第11話 市城香苗は麺の中でもうどんが好きの巻!!
四月十五日。
私はかなちゃんと一緒にカフェテリアにやってきていました。クリーム色の椅子が百脚以上置かれており、一つの席に二つ対応していたり、二つくっつけられた席に対し四つ対応していたりします。四時間目の授業が終わってから学年の違う生徒達もやってきていたため非常に混んでいました。
「そういえば、今日の避難訓練大変だったね。まさか、接那ハンカチを忘れているなんてさ」
「うぅ……あんまり言わんといて。手をハンカチ代わりにするの中々恥ずかしかったんだから……」
かなちゃんは、黄緑色のお盆を持ちながら私に対して先ほどのことを言ってきます。今日は避難訓練があると分かっていたにもかかわらず、私は熊さん柄のハンカチを持ってきていなかったからです。私は、頬が赤く高揚するとともに恥ずかしさがこみ上げてきます。
「あ、きつねうどん大盛り一つお願いします」
「はいよーーきつねうどん大盛り一つ!!」
かなちゃんは好物の温かいきつねうどんを注文しました。柔らかい太めの麵に料理を作ってくださっている方々が朝早くから起きて作っている学校オリジナルの油揚げ、そこにかけられている小刻みに刻まれたねぎ、一口サイズに切られている4つの蒲鉾が入った人気メニューの一つです。
それに対し、私は柔らかく口でほんのりと溶けていく卵とじされた親子丼を注文しました。
「あ、接那。今日はご飯大盛りの生姜焼きセットじゃないんだ」
「まぁ、うん。ちょっと私もダイエットしようと思って」
「えぇ――ダイエット?接那は別に太っていないから別に大丈夫だと思うけれど……」
かなちゃんは心配そうな表情をしながらそう言っています。そりゃかなちゃんはダイエットなんて考えなくてもいいでしょう。
何せ、かなちゃんが太っている状況など一度も見たことないですから。
このやせ型体質め。
「あ、あそこにしましょ。ラッキーね。偶然二人分の席が空いているなんて」
「あ、うん、そうだね」
私は、かなちゃんに対して恨み節を吐きながら一緒の席に座ります。
そして、「いただきます!」と言ってから黄緑色のお盆の上に置かれている赤黒に塗られている箸を右手で手に取り、左手で皿を持ちながら麵とネギをすすります。
「うぅーーん。美味しい。濃厚なしょうゆスープに柔らかい麵が上手くしみ込んでこってりさっぱりのテイストね。やっぱり、このメニューを選んで正解だったわ!」
かなちゃんはいつもの硬い雰囲気からは一転してお料理の講評をし始めています。やはり、麺類の中でもうどんが大好物のようです。それもそうでしょう。何せ、彼女はカラオケに行ったりショッピングをしに行く時ですら必ずうどんが販売している店に行くほどですから。
将棋の稲庭戦法の元語源かもといわれている稲庭うどん。
みなさんご存じ香川県の讃岐うどん。
かけどん、ざるうどん、ぶっかけうどん、etc。
正にうどんオタクと言えるでしょう。
私はそんなくだらないことを思いながら、親子丼に手を伸ばします。
光に照らされ黄金色に輝く親子丼はもはや卵と鳥だから親子丼という理由よりも黄金丼というのが正しいかもしれません。私はそんな風に頭を溶かしつつ、親子丼を箸で口に運びます。途端に口に広がるのは、こんがり焼けた黄身の味と温かい白米の甘い味でした。私はその甘美なる味に舌鼓を打ちます。
「どう?おいしい?」
私が親子丼を一口咀嚼し、飲み込んだ後かなちゃんは穏やかな表情を浮かべながらそのように聞いてきます。その笑みにつられるように私も柔らかい笑みを作りながらこのように返しました。
「うん、おいしいよ」
「そっか。良かったぁ」
私の返答に対して、かなちゃんは柔らかい笑みを浮かべます。私は、こんな会話をするのはいつぶりだろうなと思いました。ここ最近は勉強や部活動のことに捕らわれすぎていたので、もしかしたらこんな風に柔らかい雰囲気で話が出来ていなかったのかもしれません。
私はそんなことを思いつつ、かなちゃんに質問します。
「そういえば、かなちゃんは部活何にしたの?」
「あ、そういえば言っていなかったね。私、まだ部活に入部していないの」
「え、何で? かなちゃん、写真を撮ることが好きだったから写真部に入ると思っていたのに。ほら、昔さ。中学時代告白されたけれど私写真の方が好きだからって言って断ったぐらいだし」
「ちょちょ、接那!! 恥ずかしい話しないでよ!!」
私は彼女が昔に行った告白方法を軽く話しつつ、思考を行っていました。
それは、なぜ彼女が部活に入っていないのかということです。これは私に言えたことではありませんが先日神白先生に言われた内容は大学に入学するときなどに用いられるポートフォリオに書くときのデータに用いられるからです。それに、写真部のような部活に入れればかなちゃんが好きな写真を沢山撮ることが出来ます。
合理的ではない彼女の言葉に対して疑問を持っている中、彼女は突如このように言ってきたのです。
「実はね……私もね、サッカー部のマネージャーになりたいなって思っているの」
「えぇ!? なんで……?」
「それは……えっと……」
かなちゃんは赤面しながら私の顔を見つめています。何故赤面する必要があるのでしょうか。もしかしたら、うどんに間違えてアルコール系統でも混入していたのでしょうか。いやいや、さすがにそんなわけはないでしょう。
「そう、心配だからよ!!」
「えぇ……」
私は、彼女が理由の部分をごまかしたんだろうなって思いました。けれども、彼女を拒む必要はありません。むしろいてくれた方が対戦相手の写真などを鮮明にとってもらえるので、要注意選手などを視覚的に把握していただけるので非常に助かります。
「それじゃあ、うん。これからよろしくね」
「あ、うん!! ありがとう!!」
「それじゃ、善は急げだ!! 今日、入部届をもらいに行くぞーー!!」
かなちゃんは突如、拳の表面を私に見せながら明るい声でそう言います。
私は、入部届をもらえないと言い忘れました。何故なら、笑顔が可愛すぎたからです。純真無垢な笑みを浮かべている彼女の表情を変えさせる一言を放つのは難しいと思いました。
こうして、放課後――
「それじゃ、私は外で待っているね」
「うん、分かった。入部届をもらうことが出来たら紙を見せるね」
私は、正直言って期待をしていませんでした。どうせ入部届なんてもらうことが出来ません。何せ、先生方は私を入部させないほどだったんですから。そんなことを思っている間に、ミルク色の職員室の扉を開けてかなちゃんは部屋の中に入っていきます。
私はその間に、先日の件について考えていました。何故、荒畑さんが連絡をしてくれないかということです。私が知っている荒畑さんは、チームを助けるために得点を取り続ける光のような人物だと思っていました。確かに、解雇はされてしまいましたがあれほどの実力を持っていればどこかほかのチームが獲得していてもおかしくないのです。
でも、JリーグでもFリーグでもあの人の獲得情報はありませんでした。
もしかしたら、選手として獲得されなかったことに絶望してしまったのでしょうか。いや、それだと矛盾します。何故なら、コーチ契約の承諾は主に本人が行うからです。疑問が私の頭を渦巻いていきます。
「接那――。入部届もらえたよーー」
「ええっ!? マジで!?」
私は、今年一番激しく驚きました。
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