第23話 蕎麦湯と謝罪の巻

 私達はお昼時の峯屋に入っていた。峯屋はとても混んでおり、店員の方々は忙しなくお料理を運び続けている。どの定食料理も美味しそうだなと感じつつ、食欲を紛らわすために冷えたお冷をくいっと口に運ぶ。ひんやりと冷たい液体が身体中を駆け巡っていると感じていた。


「ねぇ、かなちゃん。ちょっと聞いてもいい?」

「どうしたの、接那」

「かなちゃんって蕎麦湯飲む派? それとも飲まない派?」

「う――ん、私は飲む派かなぁ。蕎麦湯は蕎麦に含まれている栄養素がたくさん入っているから健康にもいいっていうしね」

「え、そうなんだ! じゃあ、折角だし蕎麦注文してみようかな!」

「ふふっ、良いと思うよ!」


 かなちゃんからそばに関する雑学を教えてもらった私は蕎麦を実際に食べてみようと思った。もちろん、蕎麦湯と言う正体不明な物体に挑戦する。蕎麦湯とは一体どの様な物体なのか。気になる限りだ。


「みんな、さっきはごめんなさい」


 そんなやり取りをしている中、國岡が申し訳無さそうな表情を浮かべながら謝ってきた。テーブルに勢い良く頭を付けたため、髪がテーブルにかかっている。心から謝っているのだろうという気持ちが伝わってきた。


 私が軽く辺りを見渡すと、こちらに目線を向けている人たちがちらほらといた。下手に注目を集めるのもあまりよろしくないと思った私は、國岡に顔を上げるように言おうと考えていた。


「國岡さん。顔を上げてちょうだい」


 私が言う前に、かなちゃんが笑みを浮かべながらそう言った。國岡はテーブルに押し付けていた頭を上げ、両手を膝に置く。


「私ね。今回の一件あんまり快くは思っていないの。だって、皆で計画した旅行だったのに、貴方一人の勝手な行動で色々と大変なことになりそうだったからね」

「……」

「けど、反省している気持ちは伝わったわ。私達はまだ中学生だし、いろいろと失敗はある。だから、少しづつでもいいから一つ一つミスを潰していけばいいと思うの。だからさ。今回の件はこれで解決したことにしましょ」


「……分かりました。ありがとうございます。そして、すみませんでした」


 かなちゃんが薄い笑みを浮かべながらそう言うと、國岡は二回程度頷いてから謝罪の言葉を口にした。とりあえずは一件落着だろうか。


 私はそう思いつつ、三原君の方を見る。私と目があった三原君は一度頷いた後、右手で丸の形を作った。三原君的にもそこまで怒ろうという気はないのだろう。私はほっとしつつ、お料理が来るのを待つことにした。


「うんま――い!」


 私は注文した天ぷらそばの美味しさに声を出した。周りから笑い声が聞こえてきたことに気が付いた私は恥ずかしくなり顔を赤らめる。そんな様子の私を見た國岡が「接那っていつも明るいよね」と言ってきた。


「まぁ、それぐらいしか取り柄無いから」

「えっ!? そんなこと無いよ、接那」

「ほんと? かなちゃん」

「ほんとほんと! 接那はどんなことも折れず挑戦するから凄いと思うよ!」

「へへっ、そう言ってもらえると嬉しいなぁ……」


 私はかなちゃんから誉め言葉を受け取ったのでとても嬉しいなと思いつつ、蕎麦湯を口に運ぶ。直後、そばの風味が口いっぱいに広がった。これほど美味しい物があったのかと思いながら、私は蕎麦湯を飲み干した。


「ご馳走様でした!」


 私は両手を合わせてそう言った。みんなが食べている間に少しだけスマホを使いスタジアムまでの距離を確認する。十分程度で到着する距離であるため試合には十分間に合うだろうと認識した。


「それじゃ、そろそろ出ようか」


 私は皆が食べ終わったことを確認してから、支払いを個別で行った。八百円程度であの蕎麦を食べれるなら間違いなくお得だなと思いつつ、軽く伸びをする。ふと顔を上げると、ぎらぎらと光っている太陽が目に入った。


「今日の試合、楽しみだなぁ」


 私は太陽を眺めながら呟いたのだった。

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