第22話 國岡暴走の巻

 私は皆と品川駅構内を歩きながら家族に渡すお土産を考えていた。

 もしお土産を渡したら両親が喜んでくれるんじゃないかと感じたからだ。


「どうしたの、接那。そんなにキョロキョロして」

「かなちゃん。実はさ。今日せっかく品川に来たからお父さんとお母さんにお土産を買おうと思ったんだ。何がいいと思う?」


 私がそう質問すると、かなちゃんが両手を合わせながら「えぇ、良いじゃん! 一体何を買うの!?」と目を輝かせてくる。

 

「今の所……お菓子とか?」

「おぉ、いいねぇ! 確かにお菓子とかは喜ばれそうだもんね!」

「ふふっ、ありがとう。もしかなちゃんだったら何を買う?」

「私も同じようにお菓子を買うかなぁ。けど、麺類もやっぱり逃せないなぁ。麺類は日持ちもするし湯がけば簡単に食べられるから便利なんだよねぇ。例えばうどんは太めだからカレーうどんや讃岐うどん、きつねうどんや素うどんにすることも出来るし、そばは普通に湯がけば汁と一緒に何杯でも食べられるから土産としては最適! うん、よくよく考えたらお菓子よりも麺だね!」

「な、なるほど」


 私は目を輝かせながら麺類愛を熱く語るかなちゃんを見て火をつけてしまったと理解した。ご存じの通り、かなちゃんは麺オタクだ。休日かつお金があれば麺を食べるほどに麺が大好きだ。そんな彼女の導火線を起動してしまった以上、麺愛が留まることは無いだろう。


 私がそんなことを感じつつ後ろを振り向くと、三原君の方に腕をかけている國岡の姿があった。頬を染めながら「手ぇ掴ませてぇ――」とねだっている。お酒でも飲んでしまったかと思わせる様な行動をとる國岡の面倒を見ている三原君に対し心の中でお疲れ様ですと呟きながら私はかなちゃんの元へと戻っていった。


「取り合えず聞きたいんだけどさ。今日行く予定のお店ってどこなの?」

峯屋みねやっていう暖簾が書かれているお店。そばが人気らしいけれど、丼ものもしっかりとあるらしいよ。サイト内では評価高いっぽいし、雰囲気もよさそう」

「おぉ、それは楽しみだね!」


 かなちゃんが選んだお店がどういう場所なのか気になるなと思いつつ、私達は駅から出る。眩しい陽射しが差し込む快晴の空。様々な人々が忙しなく行きかう賑わいのある街。これが都会か、都会なのか。


「本当に凄い街だね……こんなに人がいるの私あんまり見たこと無いよ」

「……………………うん、そうだね!」


 かなちゃんは数秒間が空いた後、元気良く返答してくれた。


「すみません、霧原さん。変わってくれませんかね。もう重くて重くて……」


 三原君の声がした方向を見ると、そこには額に汗を浮かべながら下を向いて立っている三原君の姿があった。どうやら振りほどこうとしても國岡ががっしりと肩を組んでいるため離れることが出来ないらしい。

 少々距離がある中、國岡一人分背負って良くここまで歩いてこれたなと感心しつつ、三原君の負担をこれ以上増やさないようにしなければと思った私は國岡の腕を三原君から引き離すことにした。


「ほらほら、手なら私がつないであげるからさ」


 私は三原君に手を伸ばそうとする國岡の右手を左手で掴み、握手した。

 これなら三原君にちょっかいがかかることは無いだろう。


「いやだぁ。接那じゃやだぁ!」

「わがまま言うんじゃないよ」


 そう思っていた私の認識が甘かったのはその直後だった。國岡は私が力を込めているにもかかわらず強引に引っ張って三原君のもとへ行こうとしたのだ。足に力を込めて踏ん張ろうとしても、異様な力を持った國岡の動きを制止させることは出来なかった。


「ステイ! ステイだ國岡!」


 私が焦りながら國岡を制止しようとするが、國岡は足を止めなかった。このままいけば、目の前に見えている柵の無い空間にぶつかるだろう。柵が無いってことはつまり、この先が階段と言うことだ。


 階段から落下すれば怪我をする可能性は非常に高い。

 いや、最悪の場合死んでしまうかもしれない。

 私が焦りながら解決策を考えている中、一人の女性が國岡と三原君の間に入る。その女性は、かなちゃんだった。


「接那、手を離して!」

「わ、分かった!」


 私はかなちゃんの大声に驚きつつ、左手を離す。勢いのあまり吹き飛ばされそうになるが、重心を後ろにかけ尻もちをつくことで止まることが出来た。ただ、床は舗装されているためかとても痛かった。


 不幸中の幸いと言えるとすれば、かなちゃんに買ってもらったこの服に目に見える傷が付かなかったことだ。少しだけ汚れたとしても洗えばなんとかできる範囲だろう。


「そ、そうだ! かなちゃんは!?」


 私は顔を上げてかなちゃんの方を見る。

 するとそこには、予想外の光景が広がっていた。

 なんと、國岡がかなちゃんの前で倒れていたのだ。

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