第21話 品川駅到着の巻
私はかなちゃんと一緒の座席に座りながら京浜東北線の窓から見える風景を眺めていた。野球場や大きな川、マンションなどの高層建築物が淡々と移り変わる。意外と飽きないものだなと思っていると、かなちゃんが肩をトントンと叩いてくる。
「ねぇ、接那。あの二人とは別号車にしちゃったけど大丈夫かな……」
口をへの文字にしながら額に汗を浮かべているかなちゃんの顔を見つめながら私は返答を考える。この状況を作り出したきっかけは私が勝手にホームまで走っていってしまった事が原因だ。
普通に考えれば幼馴染など普通の関係だ。誰でも想像出来るはずなのに、私は地球に隕石が降って来たかのように動揺した。
属性過多の情報を聞いたことで脳細胞がバグったのだろう。そうに違いない。
高鳴る鼓動を感じつつ、私はそんな風に自分を分析する。
「多分大丈夫だと思うよ。だって、幼馴染らしいし」
もちろん、私は大丈夫だと思っていない。
何せ、三原君と一緒にいるのはサッカーストーカー兼幼馴染、
「けど、やっぱり心配だからさ。三原君の様子確認しに行かない?」
「そうだね。私も誘っちゃったし、行こうか」
自分で決断出来ない私はかなちゃんの言うとおりにしようと思った。
私達はふんわりとした座席から立ち上がり、号車を繋ぐ扉まで向かっていく。吊革に捕まっている人達の邪魔にならない様に「すみません」と言いながらゆっくりと通っていく。
二号車と書かれていることを確認した後、私は金属製の扉を右手で持ってスライドさせる。ガタンガタンと強めに揺れたためかなちゃんが後ろに尻もちをつきかけそうになったが、私が左手でかなちゃんの右手を掴むことで回避した。
「ありがとう、接那」
かなちゃんのお礼に対し私は短い言葉で謙遜した。そんなこともありつつ、私は金属の扉をスライドさせる。一号車という番号が目に入ると同時に、号車内の光景が視界に入る。私が予想していたより、人数は少なく閑散としていた。
座席に座っているのは三原君と國岡の二人だけだった。私達は一番奥の席に座っている彼らのもとへ向かっていった。どうやら、國岡が見せているスマホ画面を三原君は熱心に見ているからかこちらには気が付いていないようだ。
「やっほー、二人とも」
私が軽い感じで声をかけると三原君が顔を上げる。
「霧原さんに市城さん。こっちの号車来たんですね」
「うん。来たよ」
かなちゃんは笑みを浮かべながら三原君の隣席に座る。かなちゃんが空いている席を左手で指差していたが、この時の私はそれ以上に目を惹かれるものがあった。國岡が見ている映像がサッカーだったからだ。
私は國岡の隣にあえて座った。三原君が明らかに動揺していたがその理由は分からない。とにかく私はサッカーの映像を見ることにした。國岡が見ている映像は一選手にフォーカスを当てたプレー集だった。
4-2-3-1のフォーメンションの中でボランチを務めている12番の選手だった。動き的に予想したため、正しいとは限らないが確実に当たっているだろう。私がそんなことを考えていると、背番号12番を付けた選手がボールを持つ。
それと同時に大柄な体躯が特徴的な選手がプレスをかけた。12番の選手は大柄の選手を躱すためにドリブルを開始したが、相手選手がタックルを仕掛けて奪おうとする。体格差がある以上、当たり負けするだろうと私は感じていた。
しかし、私の予想に反しその選手はタックルを受けてもすぐに立て直しドリブルを再開したのだ。体が強い選手だなと私は横で見ながらそんな風に感じていた。
その選手はハーフウェイラインに侵入した後も単独で突破していく。魅せる様な技を使用せず一人で勝負を挑めるその度胸には目を惹かれるものがある。
映像を見ながらそんな風に感じていると、突如映像が停止した。
「人のスマホを了承も無しに見るなんて失礼じゃないかな」
私が声の方向に顔を向けると、そこにはあきれ顔の國岡がいた。映像を見たからか一瞬理解が追い付かなかったが、了承を取っていなかったことに私は気が付いた。
「ご、ごめんなさい!」
「まぁ、良いけどさ。次からは気を付けてね」
「分かった。ほんとうにごめんなさい!」
恥ずかしい一面を見せてしまった私は頬を茹蛸の様に真っ赤にしながら両手で顔を抑える。恥ずかしすぎて誰にも見られたくないと感じたからだ。そんな時だった。
「品川――品川。お出口は――」
電車内でアナウンスが鳴り響く。どうやら目的地に到着したらしい。私は赤くなっている顔を覆うのを辞め、電車から降りることにした。
「さて、と。これからどうする?」
三原君が皆に対して質問する。Fリーグの試合開始時間まで時間があるため、どうにかして暇な時間を潰さなくてはならない。どうやって消費しようか考えていた時、かなちゃんがとある提案をした。
「ねぇ、折角だしさ。麺食べに行かない?」
「麺ですか。確かに良いですね。お店は決めているんですか?」
「ふっふっふっ……これでも私は麺オタクよ。舐めてもらっちゃ困るわ。取り合えず駅から出ましょうか」
私達はかなちゃんを先頭に駅から出た。途端に広がるのはまるで映画の世界とでも言いたくなる様な凄い光景だった。トンネル状の形をした道が芸術的に舗装されており、横に取り付けられているパネルスクリーンには様々な広告が表示されている。
「凄い広いね……びっくりした」
私が感嘆の声を漏らすと三原君も呼応するように賛同してくれた。どうやら私達は品川初仲間だったらしい。私が「おぉ、仲間だ!」とハイタッチする様な行動をとると三原君も「そうですね」と言いながら合わせてくれた。
そんな私達の行動を見つめている國岡とかなちゃんの目が少々冷ややかな物だった気がするのは気のせいだったと思いたい。
「取り合えず、麺屋さん行こうか」
「うん、そうだね」
冷静になった私はかなちゃんの指示に従い目的の麺屋さんへと向かう事にした。
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