第20話 衝撃の事実の巻

 風呂に入り、ホカホカになった私は声に出しながら荷物の用意を始めた。声に出しながらだとミスの比率が比較的減少するからだ。私みたいに忘れっぽい人にとってはこの手法は欠かせないのである。


「よし、荷物はこんな感じでいいかな」


 私はリュックをベッド近くに置いた後、クローゼットを開き服を一着取り出した。その服は、腰から裾に向かい柔らかく広がるシルエットが特徴なワンピースだ。


 この服はかなちゃんとお出かけした際に買ってもらった服である。生地が薄く通気性が良い為、普段使いしやすい。そして何より、可愛らしい。落ち着きのある女性が着ているイメージがあるなと私は何となく感じていた。


 ただ問題があるとすれば、私がこういう服を着なれていないと言う事である。


 何せ私はジャージやクマ柄のパジャマ、練習服というような感じで女性らしい服を着たことがほとんど無い。制服は女性的な服に該当するかもしれないが、制服は何となく違う。あれは義務的に着る物であって、ファッションからは全く遠い存在なのである。


「取り合えず着てみようかなぁ」


 私はそんな風に呟きながらワンピースを着始めた。サイズが合っているためか、青と白で構成されたストライプ柄の生地が私の肌になじんだ。そして、背中のリボンは私のウエストを引き締める。


 ひらひらのうすいスカートは私の動きに合わせ揺れ動く。鏡に映る自分自身を見て、私は初めてファッションをしているんだなと感じた。改めてかなちゃんにお礼を伝えようと思った。


「よし、今日はこれで行ってみようかな!」


 私は声色を明るくしつつ、ブルーのストライプ模様の靴下を丁寧に履く。これで準備は完了だ。リュックを背負った私は笑みを浮かべながら踊るように階段を降りる。


「おっ、接那。今日はどこかに……?」


 私が階段を降り終えると、お父さんが新聞を読みながらコーヒーを飲んでリビングでゆったりしていた。お父さんは私の方を見るや否や笑みを浮かべる。


「可愛いじゃないかぁ! 似合ってるよ!」

「ありがとう、お父さん!」


 お父さんはとっても純粋な人だ。お母さん曰く、「お父さんは馬鹿正直なの。良いことや悪いこと全て感情に出るから管理しやすいのよね」と言われるぐらいだ。そんなお父さんが褒めているのだから、これは建前ではなく本心なのだろう。


 お父さんから褒められた私は心の底から嬉しかった。

 喜びを心の内に秘めつつ、私は青を基調としたスポーツシューズを履く。


「それじゃ、行ってきます!」

「行ってらっしゃ――い」


 私はお父さんに手を振ってから、外に出た。

 玄関を開けた先に白キャップを被った女性が立っている。

 鮮やかな赤色の瞳が特徴的な肌白の女性だ。


「待ってたよ、接那!」

「さっきぶりだね、國岡」


 私が右手を上げながら挨拶をすると、國岡が指を差しながら質問した。


「似合ってるね、その服。お母さんに買ってもらったの?」

「いや、友達に選んでもらった」

「へ――センスあるねぇ、その友達」

「いや、國岡も中々に良いじゃん」


 國岡は機能性の高いマウンテンパーカーと黒スキニーを組み合わせたファッションをしていた。素人の私から見てもカッコよく、真似してみたいとすら思えてしまう。


「これね、私のお姉さんのおさがりなの。だから私のファッションセンスがあるって訳じゃなくて、お姉さんが凄いだけだよ」

「えっ、國岡ってお姉さんいたんだ!?」

「そうだよ。これでも妹なの」

「へぇ――! 気が付かなかった」


 國岡のファッションレベルが高い理由に納得した私は相槌を打つ。きっと國岡よりもまともなんだろうなと心の中で思っていた。


「取り合えず、蕨駅にいこっか」

「そうだね」

 

 私達は蕨駅を目指して歩き始める。道路沿いに生えた木々には深緑色の葉が生い茂り、道行く人たちは楽しそうに話している。

 

 信号を渡り、角を曲がると昔立ち寄っていた書店が見えてきた。この書店は昔愛読していたマンガを買うために立ち寄っていたお店だ。最近は寄らなくなったがまた時間がある時にでも寄ってみよう。


 歩を進めると、JR蕨駅の姿が見えてきた。私は駅の改札前までエスカレーターを用いてのぼっていく。改札前に到着すると、談笑している三原君とかなちゃんの姿が見えた。

 

 私が笑顔を浮かべながら手を振ると、気が付いたかなちゃんが笑みを浮かべながらこちらにやってきた。この日のかなちゃんはスウェット系の白シャツとジーンズを身に着けていた。


 三原君はワイシャツに黒長ズボンと言った普通の学生のような服装をしていた。硬い性格が出ているなと何となく感じた。


 三原君は怪訝そうな顔をしながら額の汗を腕で拭いつつ距離を取る。何故そんな表情を浮かべているんだろうかと疑問を抱きかけた時だった。


「三原くぅぅぅぅん! 会いたかったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 甲高い声が聞こえると同時に、私の横を影が通り過ぎた。それは長髪を左右に揺らしながら三原君のもとへと向かっていく。


「う、うわあああああああ!?」


 三原君は避けようとしたが既に時すでに遅し。避ける間もなく、駅の床に頭を打ってしまった。


「ご、ごめんなさい! 大丈夫だった!?」

「っつぅ……痛いなぁ。ぶつからないでよ、暦」


 三原君は右手で後頭部を擦りつつ、國岡の伸ばした左手を掴み立ち上がった。


「本当にごめんなさい、最近会えていなかったからつい……」

「まぁ、良いよ。反省しているならさ」


 申し訳なさそうな表情の國岡に対し三原君が軽い口調で注意する。今まで見たこと無かった三原君の言動に対し私はとてつもない違和感を感じていた。


「なんか三原君、違うよね」

「確かに。あんな陽キャっぽかったっけ」

「なんか違う気がするけど……まぁいいや」


 私の発言をスルーしたかなちゃんが腕を組みながら三原君に対して質問する。


「ねぇ、三原君。そちらの方とは知り合いなの?」

「あぁ、その、えっと……」


 三原君はかなちゃんから目をそらしながら言葉を迷っていた。何故迷う必要があるのだろうか。彼らの関係性はあくまでフットサル仲間じゃないのか。

 そんな風に私が考えていると、國岡が突如発言した。


「私達、幼馴染なんですよ」

「…………は?」


 私は一文字しか口から言葉を出せなかった。

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